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晴空 めると 🌙
#ファンタジー
橘靖竜
星の報告は、ある日突然増えたわけではなかった。
最初は小さな記録だった。
農村で一つ。港町で一つ。王都の住宅街で一つ。
それぞれは孤立した出来事に見えたが、観測塔が記録を積み重ねるにつれて、明らかな傾向が見え始めた。
そしてその傾向は、やがて国の外からも届くようになる。
王宮の書庫に、一通の封書が届いた。
封蝋には見慣れない紋章が押されている。
北方の王国のものだった。
外交官が持ってきた報告書である。
王太子はそれを開き、机の上に広げた。
文章は簡潔だった。だが内容は予想外のものだった。
北方の王国でも星が増えている。
しかも色のない星が。
王太子はしばらく黙ってその紙を読んでいた。
同席していた学官が口を開く。
「他国でもですか」
「そのようだ」
王太子は紙を机に置く。
「しかも恋人関係だけではない」
学官は眉をひそめた。
「つまり我が国の現象ではない」
「そういうことになる」
その日の午後、王宮の会議室には再び人が集められた。
貴族、官僚、学官、そして神殿の代表もいる。
机の上にはいくつもの報告書が並べられていた。
北方王国、東方都市国家、西の海洋同盟。
それぞれの地域から届いた観測記録。
内容は驚くほど似ていた。
星が増えている。
恋人以外の関係でも現れる。
そして無色星が混ざっている。
財務卿が静かに言う。
「偶然ではありません」
学官が頷く。
「観測時期もほぼ同じです」
神殿の司祭が腕を組む。
「神の意思でしょう」
王太子はその言葉を聞きながら、報告書の一つを手に取った。
東方都市国家の記録だった。
そこでは、長く対立していた商人の一族が和解した夜に星が観測されている。
彼はゆっくり言う。
「もし神の意思だとして」
司祭が顔を上げる。
「なぜ今なのか」
司祭はすぐには答えなかった。
王太子は続ける。
「数百年、星は王妃の象徴とされてきた。
それが今になって世界中で増える」
彼は紙を机に置く。
「説明が必要だろう」
会議室は静まり返った。
その沈黙の中で、学官が言った。
「一つの可能性があります」
全員が彼を見る。
「これまで観測が不十分だった」
「不十分?」
「はい」
学官は資料を広げる。
「過去の観測はほとんど王宮周辺に限られていました」
王妃制度の影響である。星は王妃の象徴と考えられていたため、観測の中心も王宮だった。
「しかし最近は違います」
学官は続ける。
「各地で観測が行われている。
つまり」
彼は言った。
「世界は以前から同じだった可能性があります」
誰かが息を呑む。
「ただ」
学官は静かに言う。
「今まで気づかなかった」
王太子はしばらく考えていた。
それから窓の外を見る。
空は夕方に近づいている。光が少しずつ柔らかくなっていた。
「世界は変わっていない」
彼は言う。
「人間の見方が変わっただけか」
学官は頷いた。
「その可能性があります」
会議はそのまま長く続いた。
各国の記録を比較し、新しい観測網の設置を検討し、星の理論を整理する。
だが議論がどれだけ進んでも、一つの事実だけは動かなかった。
星は世界中で増えている。
その夜、王宮の観測塔ではいつものように空の記録が取られていた。
観測官は望遠鏡から目を離し、ゆっくり息を吐く。
星の数がまた増えている。
色のある星も、無色の星も。
彼は記録帳に新しい線を引いた。
そこには王都の上空だけでなく、遠い地方の観測結果も並んでいる。
各地の塔から送られてくる報告が、同じ現象を示していた。
世界の空は同じだった。
観測官は最後に窓から直接夜空を見上げる。
星は静かに光っている。
昔と変わらないようにも見える。
だが彼は知っていた。
見方が変われば、空はまったく違うものになる。
そのとき、一つの報告が追加された。
南の海の観測船からの通信だった。
航海中の船員たちが星を観測したという。
場所は陸地から遠く離れた海の上。
報告書には短い補足が書かれていた。
「長年同じ船で航海してきた船員たちの上空に出現」
観測官はその一文を読み、ゆっくり記録帳を閉じた。
星は王宮だけのものではない。
国だけのものでもない。
海の上でも、人が関係を持つ場所なら現れる。
夜空は変わらず広がっていた。
だがその意味は、もう以前とは同じではなかった。