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大学の講義が終わる。
教室の空気が一気に緩む。
椅子が動く音。
鞄を閉める音。
凪はノートをまとめている。
そのとき。
「凪ー」
前の席の男子が振り向く。
「ん?」
「レポート送って」
「うん、いいよ」
スマホを出す。
データを送る。
男子はすぐ隣の友達に言う。
「凪から来た」
「マジ?」
「送るわ」
凪のレポートは、あっという間に三人に広がる。
「助かったー」
「神」
凪は笑う。
「どういたしまして」
教室を出る。
廊下。
「凪」
今度は女子。
「出席カード出しといてくれる?」
「うん」
カードを受け取る。
三枚。
「ありがとー」
女子はもう友達と話しながら歩いている。
凪は教務課に向かう。
提出箱にカードを入れる。
ついでに自分のも入れる。
そのあと。
スマホが鳴る。
蒼
凪は出る。
「もしもし」
「凪」
「ん」
「今日そっち行く」
凪は少しだけ笑う。
「いいよ」
「飯ある?」
凪は考える。
冷蔵庫。
卵。
豆腐。
キャベツ。
「なんとかなる」
「じゃあ行く」
電話が切れる。
凪はスマホをポケットに入れる。
少しだけ足取りが軽い。
夕方。
凪はバイトを終える。
コンビニ。
先輩がレジの奥で言う。
「凪ー」
「はい」
「このあと飲み行くけど来る?」
凪は少し考える。
蒼が来る。
でも。
「行きます」
先輩が笑う。
「じゃあ幹事ね」
「え」
「凪そういうの得意じゃん」
凪は少しだけ笑う。
「……わかりました」
居酒屋。
大学の先輩たち。
テーブルいっぱい。
「凪ビール」
「凪注文」
「凪これ取って」
凪は立つ。
座る。
立つ。
座る。
料理を運ぶ。
グラスを集める。
「凪ってさ」
先輩が笑う。
「ほんと便利」
周りも笑う。
凪も笑う。
別にいい。
空気が軽い。
それでいい。
会計。
レジ。
店員が言う。
「一万二千円です」
凪は後ろを見る。
先輩たちはまだ話している。
凪は財布を出す。
カードを出す。
支払う。
外に出る。
先輩が言う。
「凪払った?」
「うん」
「あとで送金するわ」
「大丈夫です」
先輩は笑う。
「助かる」
誰もスマホを出さない。
凪も何も言わない。
帰り道。
夜。
凪は財布を見る。
中身。
少ない。
そのとき。
スマホが鳴る。
蒼。
「今どこ」
「家帰るとこ」
「先着いた」
凪は少し笑う。
「鍵あるもんね」
「腹減った」
「今帰る」
部屋のドアを開ける。
蒼がソファに寝転んでいる。
テレビを見ている。
「おかえり」
蒼が言う。
凪は靴を脱ぐ。
「ただいま」
蒼が言う。
「飯」
凪は台所に向かう。
「今作る」
フライパンを出す。
蒼が後ろから言う。
「なあ」
「ん?」
「金ある?」
凪は少しだけ止まる。
それから言う。
「あるよ」
財布を見る。
さっきの残り。
それでも出す。
蒼は普通に受け取る。
「サンキュ」
凪は卵を割る。
油がはねる。
その音を聞きながら凪は少しだけ思う。
今日も人に頼まれた。
それは悪くない。
でも。
蒼がこの部屋にいる夜は少しだけ違う気がする。