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麗太
海の紅月くらげさん
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噂が広がるのに、時間はかからなかった。
王都の酒場。
市場。
貴族の屋敷。
話題はどこでも同じだった。
――王妃。
無色の王妃。
「聞いたか」
酒場の隅で男が言う。
「王太子の星が変わったらしい」
「変わった?」
「爆発型だった金色が、持続型になった」
隣の男が眉をひそめる。
「それは良いことじゃないのか」
「普通ならな」
最初の男は声を落とした。
「だが王妃は無色だ」
沈黙。
「……つまり?」
「分からん」
男は酒を飲む。
「だが変だろう」
王妃は愛を持たない。
それがこの国の理解だった。
なのに王太子の恋は続いている。
むしろ安定している。
「影響してるんじゃないか」
誰かが言う。
「何が」
「王妃だ」
低い声。
「人の感情を変えている」
酒場がざわめく。
ありえない話だった。
だが。
無色星。
王宮外の星。
王太子の金色の変化。
奇妙なことが続きすぎていた。
同じ頃、貴族の屋敷でも似た話がされていた。
「偶然とは思えない」
老貴族が言う。
「王妃が現れてから空が変わった」
別の男が頷く。
「無色星。王宮外の星。王太子の金色の変化」
指を折る。
「すべて王妃の周囲だ」
誰かが呟いた。
「もし」
その声は低かった。
「王妃が人の感情に干渉できるなら」
沈黙。
「それは」
言葉を選ぶ。
「国家にとって危険ではないか」
その日の夕方。
王宮の会議室。
空気は重かった。
貴族が数人、円卓に座っている。
王太子もそこにいた。
「最近の噂をご存じでしょう」
財務卿が言う。
王太子は頷く。
「聞いた」
「王妃が人の感情に影響を与えている可能性です」
部屋が静まり返る。
「根拠は?」
「状況です」
財務卿は指を立てる。
「王妃は無色。
無色星が増えている。
王太子の金色が変化」
そして。
「すべて同時期」
王太子は机に指を置いた。
「つまり」
静かな声。
「王妃が原因だと?」
財務卿はすぐには答えない。
「可能性です」
「証拠は」
「ありません」
正直な答えだった。
だが。
「だからこそ問題です」
財務卿は続ける。
「もし王妃が人の感情を変えられるなら
それは王権以上の力になります」
沈黙。
そのとき、扉が開いた。
エリュネが入ってくる。
全員の視線が集まる。
彼女は静かに席についた。
「話は聞きました」
財務卿が少し身を乗り出す。
「王妃殿」
「あなたは」
言葉を選ぶ。
「人の感情に影響を与えられますか」
エリュネは少し考えた。
「いいえ」
「本当に?」
「はい」
声は穏やかだった。
「私は何もしていません」
財務卿はじっと彼女を見る。
「ではなぜ
空が変わったのですか」
エリュネは窓の外を見た。
夕方の空。
星はまだ見えない。
「人間が変わったからです」
静かな答えだった。
「人間?」
「はい」
彼女は言う。
「関係が増えた。
それだけです」
財務卿は首を振る。
「そんな単純な」
そのとき。
「単純だろう」
王太子が言った。
全員が彼を見る。
「人間が人間と関わる」
彼は肩をすくめる。
「それ以上の理由が必要か?」
財務卿は黙る。
だが疑いは消えていない。
「調査は続けます」
彼は言った。
「国家のために」
会議が終わったあと。
王宮の回廊。
王太子とエリュネが並んで歩いていた。
「気にするな」
彼が言う。
「慣れています」
エリュネは答える。
疑われること。
排除されること。
それは彼女にとって珍しくない。
王太子は少し考えた。
「……一つ聞く」
「はい」
「本当に何もしていないのか」
エリュネは少し止まった。
そして首を振る。
「何も」
王太子はその顔をしばらく見ていた。
やがて、空を見上げる。
夜が近づいている。
もうすぐ星が見える。
「ならいい」
彼は言った。
「俺が変わっただけだ」
エリュネは何も言わなかった。
その夜。
観測塔の記録が更新される。
無色星。
また一つ増えた。
場所は王宮。
王太子の居室の近くだった。