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#ファンタジー
向日葵@一次創作家
疑いは、静かに広がる。
炎のようではない。
煙のようだった。
気づいたときには、もう空気に混ざっている。
王宮の廊下。
エリュネが歩く。
侍女たちがすれ違う。
「……」
一瞬だけ視線が向く。
すぐ逸らされる。
小さな礼。
それだけで、言葉はない。
以前とは少し違う。
露骨な敵意ではない。
だが。
距離がある。
庭園。
貴族の夫人たちが談笑している。
エリュネが通る。
会話が止まる。
沈黙。
「……王妃様」
形式的な挨拶。
そしてまた沈黙。
エリュネは軽く頭を下げて通り過ぎる。
背後で小さな声。
「やっぱり」
「無色」
「不気味よ」
その日の夜。
王宮の小会議室。
数人の貴族が集まっていた。
「問題は噂ではない」
老貴族が言う。
「問題は可能性だ」
若い貴族が眉をひそめる。
「王妃が人の感情に影響を与える可能性」
「そうだ」
机の上には観測記録が置かれている。
無色星の報告。
「増えている」
「王宮でも王宮外でも」
老貴族はゆっくり言う。
「もし王妃が原因なら止める必要がある」
若い貴族が言う。
「証拠は?」
「ない」
「なら」
「だからこそだ」
声が低くなる。
「証明される前に止める」
沈黙。
誰かが言う。
「排除か」
その言葉は小さかった。
だが部屋の空気が変わる。
同じ頃。
王太子の執務室。
扉が開く。
側近が入る。
「殿下」
「何だ」
「貴族会議が動いています」
王太子は書類から目を上げる。
「内容は」
「王妃の隔離案」
静かな沈黙。
「理由は」
「安全確保」
王太子は椅子にもたれた。
「つまり監禁だ」
「……はい」
王太子は窓を見る。
夜の空。
星がいくつか光っている。
その中に。
色のない星。
「愚かだな」
彼は言った。
「殿下」
「証拠がない」
「それでも恐れる」
彼は小さく笑う。
「人間らしい」
その夜。
エリュネの部屋。
窓が開いている。
夜風。
星。
ノック。
「どうぞ」
王太子が入る。
「噂は聞いているか」
「はい」
エリュネは静かに言う。
「隔離の話も」
「知っているのか」
「侍女が教えてくれました」
王太子は少し眉を上げた。
「まだ話す者はいるんだな」
「少しだけ」
沈黙。
王太子は椅子に座る。
「怖くないのか」
「何がですか」
「また孤立する」
エリュネは少し考えた。
「慣れています」
同じ答えだった。
だが。
「ただ」
「ただ?」
「今回は」
彼女は窓の外を見る。
「少し違う気がします」
王太子は眉をひそめる。
「何が」
エリュネは空を指した。
無色星。
「増えている」
「それが?」
「孤立しているのは」
彼女は言う。
「私だけではない」
王太子はしばらく星を見ていた。
色のある星。
無色の星。
混ざっている。
「……確かにな」
そのとき。
王宮の観測塔。
観測官が記録を書く。
「無色星」
また一つ。
場所。
王宮。
だが。
王太子の居室ではない。
侍女の宿舎だった。
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