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夕方、真白が帰ってきた。
コートを脱いで、ソファに置く。
暖房が効いていて、部屋は思ったより暖かい。
キッチンの流しに、マグカップが二つ並んでいた。
片方は乾いていて、もう片方はまだ水滴が残っている。
アレクシスは家にいるらしい。
「いる?」
声をかける。
「いるよ」
奥の部屋から返事が来る。
少しして、アレクシスが出てきた。
部屋着のまま。
「早かったね」
「区切りよかったから」
真白は鞄を椅子に置く。
「寒かった?」
「まあまあ」
手が少し冷たい。
アレクシスがそれに気づく。
「コーヒーある」
「飲む」
短いやり取り。
アレクシスがポットを持ってくる。
湯気が立つ。
豆の匂いが、ゆっくり広がる。
真白は椅子に座る。
マグカップを両手で持つ。
熱が指に移る。
「今日さ」
「うん?」
「会社でコーヒー飲んだ」
「珍しい」
「味が違う」
「当然」
少しだけ笑う。
「ここは同じ匂いする」
真白が言う。
「帰ってきた感じする」
アレクシスは少し黙る。
「良かった」
小さく言う。
真白は一口飲む。
少し熱い。
「……うん」
息を吐く。
「これ」
「うん?」
「外で飲むと分かる」
「何が」
「ここ、いいなって」
言ったあとで、少しだけ照れる。
視線を逸らす。
アレクシスは笑わない。
ただ、隣の椅子に座る。
「俺も思う」
「何を」
「外いると早く帰りたくなる」
真白は少し黙る。
「同じだ」
ぽつりと言う。
窓の外は暗くなり始めていた。
部屋の暖かさが、少し濃くなる。
真白はマグをテーブルに置く。
ソファに移動する。
そのまま横になる。
「寝る?」
「ちょっとだけ」
アレクシスも隣に座る。
テレビはつけない。
静か。
暖房の音だけが続く。
真白は目を閉じる。
「ねえ」
「うん?」
「ここさ」
「うん」
「静かだよね」
「うん」
「落ち着く」
間。
「そうだね」
アレクシスが言う。
真白は目を閉じたまま、少しだけソファの奥に寄る。
アレクシスの腕に触れる。
意識してではない動き。
でも自然だった。
アレクシスは動かない。
そのままにする。
しばらくして、真白の呼吸がゆっくりになる。
外は冬の夜。
部屋の中だけが、少し暖かい。
同じ匂いがしていた。