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夜。
窓の外は、静かに冷えていた。
真白はテーブルにノートパソコンを広げている。
画面には作業中のデータ。
指は動いているが、少しだけ遅い。
向かいの席で、アレクシスが本を読んでいた。
ページをめくる音だけが、時々する。
暖房の風が、ゆるく部屋を回っている。
しばらくして、真白が小さく息を吐いた。
「……はあ」
アレクシスが顔を上げる。
「疲れた?」
「うん」
「まだやる?」
「もう少し」
真白は目をこする。
画面を見つめる。
少しだけ黙る。
「ねえ」
「うん?」
「アレクってさ」
言葉を探す間。
「なんでそんな落ち着いてるの」
アレクシスは少し首を傾ける。
「落ち着いて見える?」
「見える」
「中はそうでもないよ」
真白は苦笑する。
「嘘」
「本当」
「じゃあなんで」
また少し沈黙。
アレクシスは本を閉じた。
「たぶん」
「うん」
「ここが静かだから」
短い答え。
真白は少しだけ驚く。
「ここ?」
「うん」
アレクシスはテーブルを軽く指で叩く。
「この部屋」
真白は画面から視線を外す。
部屋を見回す。
ソファ。
本棚。
暖房。
乾いた洗濯物。
いつもの景色。
「……普通じゃない?」
「普通だね」
「特別なことない」
「うん」
アレクシスは少し笑う。
「でも」
少しだけ声が柔らかくなる。
「真白がいる」
真白は目を伏せる。
指が止まる。
数秒。
「それ、ずるい」
「どうして」
「簡単すぎる」
真白は小さく笑う。
「でも」
ゆっくり言う。
「分かる」
アレクシスは何も言わない。
真白はノートパソコンを閉じた。
「今日は終わり」
「早いね」
「やる気なくなった」
「俺のせい?」
「うん」
「ごめん」
「嘘」
真白は椅子を引く。
ソファに座る。
背もたれに体を預ける。
少しして、アレクシスも隣に来た。
距離は近い。
でも、触れない。
真白が言う。
「ねえ」
「うん」
「今日さ」
「うん」
「帰ってきた時」
少しだけ考える。
「なんか安心した」
アレクシスは静かに聞いている。
「ドア開けたら、暖かくて」
「うん」
「アレクがいる気がして」
真白は視線を落とす。
「それだけで」
言葉が少し遅くなる。
「今日、まあいいかって思った」
長い沈黙。
アレクシスは、ほんの少しだけ肩を寄せた。
ぶつからない程度に。
「それ」
「うん?」
「たぶん」
優しい声。
「帰る場所って言うんだと思う」
真白は目を閉じる。
呼吸がゆっくりになる。
「……そうかも」
小さく言う。
外は冬の夜。
冷たい空気が広がっている。
でも、この部屋は暖かい。
特別なことはない。
ただ、
帰ると、誰かがいる。
それだけで、
世界は少しだけ優しくなる。