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麗太
海の紅月くらげさん
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星の消失は、三日で世界に広がった。
王宮の観測塔では昼夜を問わず記録が続けられている。
机の上の紙は山のように積み上がり、窓際の望遠鏡は休むことなく空へ向けられていた。
「西区画、さらに三」
「南区画、二」
記録係が数字を書き込む。
羽ペンの先が紙を擦る音だけが部屋に残る。
王太子は窓の前に立っていた。
昼の空は青い。星は見えない。だが記録の数字だけが、静かに増えている。
「昨夜の総数」
彼が言う。
責任者の観測官が紙をめくった。
「王都上空で九十一」
「世界では」
「報告が届いている分だけで……三千を超えています」
誰も声を上げなかった。
星は増え続けていたはずだった。
それが、今は減っている。
しかも急速に。
「影は」
王太子が聞く。
「確認されています」
観測官が答える。
「ですが追えません」
「形は 一定しない」
彼は言う。
「大きさも速度も違う」
学官の一人が紙を広げた。
そこには観測図が描かれている。
星の位置。
消失時刻。
影の通過。
線がいくつも引かれている。
だが、規則は見つからない。
「星喰い……」
誰かが呟く。
最初は仮の呼び名だった。
だが今は、誰もがその言葉を使っていた。
星を食べるもの。
それが空にいる。
そのとき、塔の扉が開いた。
伝令だった。
「学術院から緊急報告です」
王太子が振り返る。
紙が手渡される。
彼は目を通した。
少しだけ眉が動く。
「何だ」
観測官が聞く。
王太子は紙を机に置いた。
「研究結果だ」
学官たちが集まる。
紙には細かい文字が並んでいる。
いくつかの観測例。
消えた星。
その分類。
恋人。
友人。
家族。
誰かが言う。
「全部ある」
別の学官が続ける。
「偏りがない」
つまり、特定の関係ではない。
星は、関係から生まれる。
それが理論だった。
ならば今起きているのは――
「関係が壊れているのか?」
観測官が言う。
学官は首を振る。
「違う」
彼は別の紙を出した。
「同時観測です」
そこには二つの記録が並んでいた。
星の消失時刻。
そしてもう一つ。
人間関係の報告。
王太子が眉をひそめる。
「これは」
「地方の調査です」
学官は言う。
「消えた星の関係者を調べました」
紙の上にはいくつかの例が並んでいる。
恋人同士。
兄弟。
友人。
だが――
「関係は続いています」
学官が言う。
「別れていない。
争ってもいない。
断絶していない」
部屋の空気が重くなる。
「……なら」
観測官が言う。
「なぜ消える」
誰も答えない。
学官はゆっくり続けた。
「逆の例もあります」
彼は別の紙を見せた。
「関係が壊れたのに星が残っている」
沈黙。
理論が崩れていく音が聞こえるようだった。
星は関係から生まれる。
そう結論づけたばかりだった。
だが。
「一致していない」
学官が言う。
「星の消失と
人間関係の変化が」
王太子は窓の外を見た。
昼の空は何も変わらない。
だが夜になれば、また星は消える。
「つまり」
彼はゆっくり言う。
「関係が壊れたから消えるわけではない」
学官は頷く。
「はい。しかし」
彼は続けた。
「関係が壊れると
星は確実に消えます」
観測官が顔を上げる。
「……どういう意味だ」
学官は少し言葉を選んだ。
「星は関係と結びついている」
「ただし」
彼は空を指した。
「消すのは別の存在です」
星喰い。
その言葉が頭に浮かぶ。
星は関係の光。
それを何かが奪っている。
そのときだった。
窓の外で光が一つ消えた。
昼の空では見えないはずの星。
だが観測官たちは同時に気づいた。
「……今」
望遠鏡が向けられる。
そして。
「消失確認」
静かな声が言った。
王太子は目を細める。
星は関係から生まれる。
その理解はまだ正しい。
だが今起きていることは、別の話だった。
人と人のあいだに生まれた光を。
何かが。
奪っている。