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教室のざわめきよりも、スマホの微かな振動音のほうがよく聞こえた。
遥の席に届く前に──美桜たちの笑い声が、全てを踏みにじっていく。
机の上に置かれたスマホ画面には、
昨日撮られた遥の“普通の写真”に、
あり得ない加工が重ねられていた。
首輪、鎖、跪いているように見せる角度補正、
ほつれた髪の影を“泣いた後”のように描いたレタッチ。
そして、胸元にうっすら影を足され、
「誰かに触られた後」のような錯覚になる加工。
美桜がそれをひとつずつスクロールしながら、
わざと無邪気な声で言う。
「ねぇこれ見て。
本物っぽくない?
“ペットのしつけ途中”みたいで可愛くない?」
友達の一人が吹き出す。
「うける。
ほらこの首輪──
“ご主人さま”って文字、入れといた」
「てかこっちのやつ、跪いてるみたいに見えない?
影だけでそれっぽくなるんだよね。
あんたさ、教室でもこうしてたら?
“らしい”よ?」
もう一人が、写真を遥の目の前ギリギリに突き出す。
「お前、自分で見てどう思う?
ほら、ちゃんと見ろよ。
奴隷って、こういう顔なんだって。
自覚くらい持ちな?」
遥は視線をそらさないよう必死だった。
呼吸だけが荒いのに、声は一つも出ない。
喉が強く締め付けられて、
体の内側がゆっくり潰れていく感覚だけが増えていく。
美桜が、彼のそんな様子を楽しむみたいに細い声で囁く。
「泣きそうなの隠してるの、ほんと無駄。
そういう“痛い顔”がいちばんウケるんだよ?」
「てか男子に見せたらさ──
どんな反応すると思う?
“こいつ首輪されてんのかよ”って絶対笑うよね」
「もしかして本当にされたいの?
ねぇ遥。
誰に首輪つけてもらいたい?
男子?それとも──あたし?」
遥の指が震えた。
制服の布が、微かに湿るほど握りしめられている。
「……やめろ……」
声は低くて掠れていた。
抵抗というより、呼吸の端がこぼれたみたいな弱さ。
美桜はそのひと言すら、
「最高の反応」として受け取る。
「ほらね?
ほんとは嫌じゃないでしょ。
嫌ならもっと大声で言えるはずだもん」
「写真のどれが一番リアル?
選びなよ、奴隷なんだから。
自分でどれで“笑われるか”決めな?」
遥は息を飲む。
胃の奥がひりつくような痛みと共に、
自分が逃げ場を完全に奪われている現実だけが胸の奥に刺さる。
机の上で、スマホの光が冷たく瞬く。
まるで、
これから広がっていく地獄の“序章”を照らすライトのように。
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