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美桜たちが加工写真を広げてから数時間──クラスの空気は明らかに“変わった”。
最初は数人だけだった嘲笑が、
昼休みにはもう「空気そのもの」みたいに当たり前になっていた。
美桜がスマホを回し、
取り巻きが笑い、
男子の一部が興味半分で覗き込む。
そして──
誰も止めない。
止める素振りすらしない。
「ねぇこれマジ? 首輪? うけるんだけど」
「跪かされてんの? 誰に? 女子? 男子?」
「つか……こいつ、そういうの似合うよな」
「“そういう顔”だもん、ほら」
クラスのあちこちで、
軽い笑い声が弾ける。
やっているのは美桜たちだ。
でも広げているのは──クラス全員。
それをわかっていて、
誰も目をそらさない。
むしろ彼らは、
“面白いものが見れてよかった”
とでも言いたげな目をして、遥の顔を観察する。
遥が通路を歩くだけで、
右からも左からも、刺されるような視線が飛んでくる。
「見た? あの画像」
「俺あの“跪いてるやつ”好きなんだけど」
「てかあれマジ加工? 本物に見えるわ」
「どっちでもいいっしょ。似合ってるんだから」
美桜の取り巻きの男子が背中を勢いよく叩く。
「おい、奴隷! 元気そうじゃん」
「写真より実物の方が哀れで草」
「……やめろって……」
声が出ても誰も聞かない。
むしろ“喋った”ことすら笑われる。
「何? 奴隷のくせに口答え?」
「美桜に言っとく? “しつけ足りてない”って」
「次はもっと本格的なの撮れば? 鎖とか、縄とかさ」
周囲がざわつく。
笑いに、軽い興奮の波が混ざっていく。
──そして、いつの間にか気づく。
美桜たちだけじゃない。
クラス全員が“いじめの編集者”みたいな顔をしている。
目の前の誰もが、
遥の崩れていく姿を楽しむ側についている。
沈黙さえ、加害になっていた。
遥の胸が、ゆっくりと沈んでいく。
心の奥で、
「クラス全体の獲物」という現実が
ひたひたと形を持ち始めていた。
そして翌日──
地獄は、“ネット”という形で完成する。
朝、下駄箱の前に立った瞬間、
後ろから声が飛ぶ。
「おい、見た? タグ増えてたぞ」
タグ?
そう思った瞬間、
目の前にスマホが突き付けられた。
画面にはクラスのグループチャット。
そしてその横には、
匿名投稿の拡散スクショ。
《♯奴隷の遥》
《♯首輪は似合う》
《♯跪き写真》
《♯ご主人さま募集中(笑)》
──ふざけたタグが、
SNSのトレンドの下層にほんのり浮上している。
「なにこれ……」
遥の声は、小さな息のようだった。
横から女子が笑う。
「昨日の写真さ、消す気なかったし。
むしろ “もっと広げよう”って話になって」
「学校外の人にも見られてるよ」
「知らないやつが“これガチ奴隷?”ってコメントしてた」
「拡散の勢い、けっこうあるよ?」
別の女子が、ニヤニヤしながら言う。
「てか見て。
新しい加工、誰が作ったのか知らないけどクオリティ高すぎ」
その画像には──
遥の顔が合成された“本物の首輪写真”が載っていた。
照明や影まで細かく合わせられ、
もはや加工と本物の境界すら曖昧。
そこにつけられたコメントも酷い。
《性癖こじれてんだろこいつ》
《かわいそwww》
《これどこの学校?見に行きたい》
《奴隷ごっこ楽しそうじゃん》
男子たちはもう、
面白いコンテンツを消費するみたいに扱っている。
「お前、人気者じゃん」
「見られてよかったじゃん」
「つか“本物の首輪写真”のほう似合ってね?」
遥のこめかみが熱くなる。
視界が揺れる。
「……やめて……ほんと……無理……」
弱々しい拒絶は、
ただの燃料にしかならなかった。
「ほら見ろよ、泣きそうじゃん」
「写真より“実物”のほうがいいわ」
「動画撮っとく? SNSに新しいの投げたら伸びるって」
美桜がスマホを上げ、
まるで芸能人でも撮るような口調で笑う。
「ねぇ遥。
今日も“撮影”しよ?
だってあんたの顔、ネットでめっちゃウケてるんだもん」
もう逃げ場はない。
教室も、廊下も、家に帰っても。
画面の向こうの誰かが、自分を笑っている。
“奴隷”のまま広がっていく。
静かに、確実に、
遥の世界が閉じていく音だけが、
胸の奥でずっと鳴り続けていた。