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泥のついた足跡を廊下に引きずりながら、遥は食卓へ戻された。椅子に座ることすら許されず、テーブルの端に正座させられる。
母方の伯母が、ため息とともに言い放つ。
「……どうしたら、こんな汚し方ができるの?」
遥は固く首を垂れるしかない。
(……言えない……)
いとこが、さも“心配してます”という顔で声を上げた。
「伯母さん、違うの。遥ね、自分で地面に服投げ捨てて
“洗うのめんどい”って言って、裸でうろうろしてたの。私たち、止めたのに」
「え……?」
伯母の目が一気に冷たくなった。
他のいとこがすかさず重ねる。
「しかもさ、祠の前でタオルだけ巻いて“怪我した俺かわいそうだろ”とか言ってて。
なんか……見てほしかったんじゃない?」
「ちょっと! そんな子だったの遥って!」
伯母が大声を上げる。
その瞬間、食卓の空気が“処罰モード”に切り替わる。
遥の唇が震える。
「ち、ちが……」
怜央菜が、椅子に座ったまま横目で見下ろし、冷たく笑う。
「否定する前に、まず土下座じゃないの?」
晃司が続く。
「家ん中汚して、風呂も入らず、裸で歩き回って……理由がどうであれ“やった側”が先だろ」
沙耶香が髪をかき上げながら、面倒くさそうに。
「静かにしなさいよ、見苦しい。正座だけじゃ足りないでしょ? 額、床につけて」
颯馬がスプーンで皿を叩き、命令のように声を上げる。
「聞こえなかったの? ——さっさとやれよ」
遥は喉を詰まらせ、震えながら深く頭を下げた。
床に額が触れ、微かに痛みが走る。
(なんで……
なんで……洗わなかったって……
言われて……
祠で……
そんな余裕……なかったのに……)
伯母が苛立ちをぶつける。
「泥まみれで戻ってきて、そのままにしておくなんて、常識がないのよ!
洗えばよかったでしょう? なんでやらなかったの?」
遥は床に額を押しつけたまま、声が出ない。
いとこが追撃する。
「ね、言ったじゃん。あいつ“俺、洗うの嫌い”って。
自分で泥つけてまで構ってもらおうとしてたんだよ。ちょっと怖かったし」
いとこが嘲笑う。
「伯母さん、これ本当。ね? 遥、反論できないよね?」
(……違う……全部……)
怜央菜が、机に肘をついたまま吐き捨てる。
「反論したら怒られるってわかってるから黙ってるだけ。
“黙れば許される”って思ってる顔」
颯馬が、さらに低く囁く。
「俺たち、全部わかってるよ。
お前が祠で何してたかも——“見られたかった”んだろ?」
遥の背筋が凍りつく。
(違う……そんな……言ってない……)
沙耶香が、ゆっくり唇をゆがめる。
「でも、いいじゃない。大人は“遥が気味の悪いことをした”って理解した。
……利用できるよね?」
晃司が静かにまとめるように言った。
「じゃあ伯母さん。罰は、今日の片付け全部。
風呂も最後で。
その前に、床に手をついて“すみませんでした”って言わせてください」
伯母は頷く。
「当然よ。こんなみっともない子、初めて見たわ」
その瞬間、いとこ が小声で勝ち誇ったように囁く。
「ねえ遥、物置って言ったのに祠に呼んだの “怖がる顔”が見たかっただけだよ。
ねえ、どう? 騙されるのって」
遥の胸が冷たくしぼんでいく。
(俺……
全部……
遊ばれただけ……?)
男子が止めを刺す。
「物置なんて最初から関係ねぇよ。
お前が怯える場所ならどこでもいいんだよ。
“裸で祠にいるやつ”って、最高じゃん。
そのほうが大人も信じるし」
兄弟はそれを聞きながら——誰一人、否定しなかった。
否定する必要がないからだ。
嘘でも真実でも、“使えるならどうでもいい”と分かっている。
晃司が冷たく言い放つ。
「頭、もっと下げろ。声に出せ。
“全部俺が悪かった”って」
遥は、搾り取るように声を震わせた。
「……ぜんぶ、俺が……悪かった、です……」
伯母が満足そうに頷く。
「それでいいの。これが“しつけ”よ」
兄弟もいとこも、その光景をただ楽しんでいた。