テラーノベル
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親戚の笑い声が遠のくにつれ、遥の腕に喰い込む結束バンドが、じわりと痛みを濃くしていく。
お仕置き部屋は、古い物置を改造したような薄暗い空間だった。足首には短い鎖。身じろぎすれば金属が冷たく鳴る。
「──ほんと最低。さっきのも全部、こっちが我慢してあげてたのに」
最初に入ってきたのはいとこの怜奈だった。
彼女は、“触られた”という嘘を最初についた張本人で、今はそれを完全に“事実”として扱いながら、目だけが笑っていない。
「ねえ、さっきの大人たちの顔、見た? アンタのこと、本気で“危ない子”って思ってたよ」
怜奈はしゃがみ込み、遥の顎をつまんで無理に顔を上げさせる。
爪が皮膚に軽く食い込む。呼吸が詰まる。
「黙ってんの? 反省してるフリぐらいしたら?」
遥は視線だけ落として、口を固く結んだ。
反論すればどうなるか、経験で知っている。
けれど、飲み込んだ言葉は喉で震え、胸を焼いた。
「……してない、から」
かすれ声でそう言った瞬間だった。
怜奈の手のひらが頬を打つ“乾いた衝撃”が走り、鎖がカンと揺れた。
「へえ──まだ逆らうんだ?」
その声に誘われるように、ほかのいとこ三人が部屋へ入ってきた。
彼らは最初から“嘘”だと知っている。
それでも怜奈を止めるどころか、面白がった眼差しで遥を見る。
「うちの親、相当怒ってたよ。あんたの親も呆れてたし。お前、家でも同じことしてんじゃないの?」
「最低だな。反省してる顔してみろよ。ほら、ちゃんと見せろって」
「逃げんなよ? 手ぇ縛られてるからって許してもらえると思うなよ」
言葉が順番に突き刺さる。
そのすぐ後、誰かの靴先が、遥の脇腹あたりを蹴った。
肉体の深部に鈍い衝撃が落ち、呼吸が短く跳ねる。
痛い──それでも叫ばない。
ここで声を上げたら、もっと喜ぶだけだ。
「晃司兄たちも言ってたよ、“こいつは調子に乗るから、ちゃんとしつけてやれ”って」
怜奈の言葉に、遥の指先がびくりと震える。
兄弟が。
──見捨てたのではなく、“利用してる”。
「ねぇ、皆の前で土下座してみせたら? 許してもらえるかもよ?」
「手、縛られてるから無理か。じゃあ、床に頭こすりつけるくらいしてみれば?」
いとこたちは、土下座を“させる”つもりなどない。
ただ、その行為を想像させ、遥をさらに貶めるためだけに言う。
「……しない」
痛みで揺れる声でも、遥はそれだけは拒んだ。
「まだ言うんだ? 強情だな」
怜奈が笑い、誰かが背中をもう一度強く押し倒すように蹴った。
結束バンドが擦れる。鎖の金属音が乾いた。
「やっぱさ、“触られた”って言ったの正解だったよね。大人、あんなに信じるとは思わなかった」
「その気になれば、いくらでも“追加で”言えるよな?」
「次はどうする? 『逃げられなくて怖かった』って言えば、またコイツ閉じ込められるんだし」
暗闇よりも残酷な、嘘の“続きを”彼らは楽しそうに相談する。
遥は地面に膝をついたまま、息を整えるように首を垂れた。
殴られた頬の内側が熱い。
蹴られた腹の奥で、鈍い波が広がる。
──痛い。でも。
──折れたくない。
言葉にならない反発が胸の底にまだ燃えていた。
そのかすかな光こそ、彼らが一番嫌うものだとわかっているから。
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