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𝐚𝐨𝐢
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親戚が集まった本家の広間は、年に一度の祭りのようにざわめいていた。
大人たちは互いに近況を報告し、笑い声を上げ、子どもたちは走り回る。
だが、遥だけはそこにいながらも、空気の中に存在を許されていないようだった。
晃司、沙耶香、怜央菜、颯馬、そして同年代のいとこたちの視線は、微妙に揃って彼を避けるか、軽く踏みつけるような角度で投げられていた。
食卓につくと、大人たちは料理や話題に夢中で、遥には箸も通さず皿を配る。
声をかけられることはなく、注文したわけでもない水が差し出されることもない。
ただそこに座っているだけで、誰も彼を気にしない。
いや、正確には気にする必要もない、扱う価値もないと暗黙に伝わる視線が、彼の肌を刺す。
食事の間、沙耶香は小声でいとこたちにささやき、怜央菜は笑いを押し殺しながら遥の皿を軽くつつく。
弟の颯馬は無邪気そうに見せて、わざと遥の手元を避けて料理をかすめ取る。
兄晃司は黙ってナイフを動かしつつ、たまに「こいつ、ほんとに食うの?」と吐き捨てるように言った。
いとこたちもそれに呼応するかのように、微笑みを浮かべつつ、目線を合わせないで足先や袖先で突くような仕草を重ねる。
食後、彼らの目は獲物を見るそれに変わった。
リビングの隅に集まり、いとこたちが輪になって遥を囲む。
年に一度の、彼らにとっての“お楽しみイベント”の始まりだった。
沙耶香が先陣を切る。
「ほら、今日もやるんでしょ?」
と嗜虐的に笑う。
怜央菜と颯馬も呼応し、遥を押し込むように円の中心に立たせた。
「どうせ動けないんでしょ?」
沙耶香の言葉に、遥は小さく「……うん」と答えるしかなかった。
言葉を発するだけで、さらに揺さぶられる。
怜央菜が肩を軽く押し、颯馬が膝を当てる。
大人たちが見ているわけではないが、いとこたちの手足の連携は容赦なく、まるで彼の存在を圧縮するかのようだった。
輪の中で、いとこたちは次々と言葉を投げつける。
「もっと小さくなれよ」
「顔見せろ、笑え」
「動くな、震えてろ」
──それは屈辱的な命令であり、痛みを伴う遊戯でもあった。
遥は抵抗したいが、身体が思うように動かない。
口から出るのは、小さな声でのつぶやきだけ。
「や、やめ……」
「……無理……」
沙耶香が指示を強める。
「そうじゃない、もっと顔を下げて。見てるだけで面白いんだから」
怜央菜が追い打ちをかける。
「泣きたいなら泣けば? でも見せて、全員に」
その輪の中心で、遥は自分が年に一度の“見せ物”であることを嫌というほど理解した。
身体の痛みと羞恥が混ざり合い、言葉を発することさえ、ただの演出にすぎない。
笑い声や軽口の間、彼は押しつぶされるような孤独と、逃げられない現実に震え続けた。
その時間がどれほど続いたのか、遥にはわからない。
年に一度の親戚の集まりは、彼にとっては永遠に続く拷問のようなものだった。
囲むいとこたちの目は楽しげで、兄弟も大人たちも笑顔を作りながら、無言の命令で彼を痛めつける。
遥の存在は、ただそこにあるだけで軽んじられ、耐えるしかない地獄の中心だった。
全員の笑いと嗜虐が一体となる中、遥の小さな呻きや震えは、彼らの遊びの中で消されていく。
立っていることも、座ることも、息をすることさえ、すべてが屈辱の演出になってしまった。誰も止める者はなく、ただ年に一度の“イベント”として、遥は追い詰められ続けるしかなかった。