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昼休み。教室の後ろに押し込まれた遥を、女子たちが囲んでいた。
“奴隷彼氏としてどこまで使えるか”を試す時間だった。
机の下でスマホのライトが点く。
彼女たちの声は明るいが、一切の温度がなかった。
「はい、じゃあ今日の“奴隷彼氏スイッチ講座”始めまーす」
先頭の女子が遥の胸元を軽く押す。
「ねぇ遥。まず確認。あんたの役割は?」
遥は喉を震わせながら答える。
「……俺……は……その……」
「遅い。はい、“奴隷彼氏”って言い切る」
「……俺は……奴隷、彼氏……っ」
「声ちっさ。聞こえない。こっち見て、笑って言うの。
“俺はあなたたちの奴隷彼氏です” ほら」
逃げ場のない視線に押され、遥は震える呼吸を整えた。
「……俺は……あなたたちの……奴隷……彼氏です……」
「はいよく言えました〜。まずここがスタート位置ね」
女子たちの笑いは、褒めるでも慰めるでもない。
ただ“使いやすく整ってきた”という満足の音だ。
「じゃあ笑顔。普通のじゃなくて、“従ってます”ってやつ」
遥はぎこちなく笑う。
「違う。“好きだから従う”んじゃないの。
“逆らえないから従ってます”の顔」
別の女子が顎をつまむ。
「ほら、目もっと下げて。媚びる感じで」
「……こ、こう……?」
「まだ強気じゃん。奴隷彼氏なのに目が主張してるのウケるんだけど」
女子たちはケラケラ笑い、彼の顔の筋肉を勝手に調整する。
「はい、怯えて。こっちが別れ話してるときの顔って設定で」
「……や、やめ、て……」
「声かわいいね。もっと。
“嫌われたくないです”って言って?」
「……き、嫌われた……く、ない……です……」
「おー、めっちゃそれっぽい。
“必死にしがみつく奴隷彼氏”ってタグ付けしよ」
スマホのシャッターが連続して響いた。
「次、“ごめんなさい彼氏”。
あんたさ、ミスしたらすぐ謝るよね? これ自然にできるでしょ?」
「……ご、め……」
「もっと下向いて。声震えさせて。
奴隷彼氏は彼女の顔まともに見れないの」
遥は硬い呼吸を吐きつつ、ゆっくり膝を折る。
「……ごめ、なさい……俺が……悪かった……」
「いいね。そのまま。“許してください”って追加」
「……ゆる、して……ください……」
「はい合格。“謝罪モード”クリア」
彼の肩は完全に落ちていたが、女子たちのテンションは上がっていく。
「じゃ、無表情いこ。奴隷彼氏は自我いらないんだから」
遥は表情を止めようとする――が、すぐ指摘される。
「眉ピクってる。ダメ。何も考えてない顔でしょ?」
「……むり……」
「できるよ。あんた自分で決めていいこと何もないじゃん?
それ思い出して」
その一言で、遥の目から力が抜ける。
女子たちは満足したようにうなずいた。
「はい、“無表情スイッチ”入りました〜。使いやすっ」
「最後に喋って。
“俺はあなたたちのための彼氏です。なんでもします”」
遥は唇を噛むが、命令には逆えない。
「……俺は……あなたたちのための……彼氏です……
な、なんでも……します……」
「語尾弱い。“必死さ”足りない」
「……なんでも……します。お願いします……使って……ください……」
「うわ、これ保存しよ。今日いちの出来」
女子たちの笑い声。
その中心で、遥は立ちながら崩れていた。
𝐚𝐨𝐢