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放課後。
教室に人影が消えるころ、
遥のスマホには通知が途切れず落ちてきていた。
《次は泣かせて》
《もっと従わせてみてよ》
《喋らせてほしい。「はい、ご主人様」って》
《檻に入れてみてほしい》
《オークション風とかウケそうw》
《なんか首輪似合うんだよなこいつ》
遥は通知を閉じようとして、指が止まった。
なぜなら──
加害者側がすでに“返信”を始めていたからだ。
《了解w》
《どれがウケるか実験しまーす》
《次の撮影会でやる》
《こいつ逃げねぇから余裕》
逃げない、ではない。
逃げられないのだ。
だが、画面の向こうの人々にとって
その違いはどうでもよかった。
放課後の空き教室。
男子数名がスマホを並べながらニヤついていた。
「おい見ろ、リクエストの数ヤバくね?」
「“檻に入れろ”だってよw どうする?」
「体育倉庫の道具、なんかそれっぽいのあるじゃん」
「“オークション形式で紹介して”ってさ。笑える」
遥が扉の前で立ち尽くす。
入るしかないとわかっている。
入らなければ──
「逃げた」という“新しい嘲笑の素材”になるだけだから。
扉を閉めると、
誰かが近寄ってきて、遥の襟首を掴んだ。
「なぁ、人気者。
今日は“奴隷オークション”やるってよ」
「……は?……何言って……」
「オークション。
お前を“商品”として紹介して、
どれが一番伸びるか試す企画」
笑い声が、ひどく軽い。
彼らは遊びの延長線上で遥を扱う。
――いや、遊びですらない。
娯楽用の消耗品。
体育倉庫へ連行されながら、
遥は心の奥がじわじわと冷えていくのを感じた。
倉庫の中。
男子たちは機材の台車を壁際に置き、
その上に丸めた金網をかぶせて「檻っぽいもの」を作っていた。
「ほら、入って」
「逃げんなよ、商品なんだから」
金網の隙間越しに見下ろされる構図が、
屈辱より先に“理解できない寒さ”を遥に与えた。
誰かがスマホを構え、実況する。
「はいどーも、今日の出品物でーす」
「状態良好。従順。すぐ泣く」
「需要めっちゃあるから値段つくんじゃね?」
遥は震える声でやっと言葉を返した。
「……やめろよ……こんなの……」
「は? 何その口調。
“お願い”するときはもっと必死にだろ?」
「……やめてくれ……って……言ってる……」
「だっさ。
もっと“それっぽく”言えよ。
ほら、リクエストにもあっただろ?」
スマホが突きつけられる。
《泣きそうな声で「お願いです、やめてください」って言わせて》
遥は喉を締めつけられるような感覚がして、
言葉がうまく出てこなかった。
だが、沈黙は“拒否”とみなされ、
さらに笑いを生む。
「逃げてんじゃん」
「言えよ、“奴隷らしく”」
「リクエストに応えろよ」
金網を棒でガンと叩かれ、
遥はびくっと体を縮める。
「なぁ、“買い手”が求めてんだよ?
お前、人気あるんだからさ――」
「……言わせんなよ、マジで……」
「ほら、泣けよ。
泣いたらまた伸びる」
コメント欄を見ながら、
笑い声が混じる。
《うずくまったままのアップ欲しい》
《情けない顔もっと》
《檻から出ようとして叩かれるやつ》
《商品説明もっと詳しく》
《こいつ夜とか何してんの?》
《もっと恥かかせて》
遥の心臓がぎゅっと縮む。
世界中が、自分の“声”より
他人の“妄想”を優先している。
そしてそれに、
加害者全体が乗っかっている。
誰も止めない。
誰も疑わない。
「次、どうする?
“買い手のコメント紹介コーナー”やる?」
「やろやろw
こいつの“評価”まとめるの楽しすぎ」
スマホライトが遥の顔を照らす。
眩しさよりも、
その光に映る“自分が奪われていく感覚”に
遥は呼吸を忘れそうになった。
金網の向こうで、
男子たちは楽しそうに言い合う。
「じゃあ次はマジで“入札式”やるか」
「リクエスト募集しとくわ」
「こいつ、何されるのが一番伸びると思う?」
遥は、
もう膝を抱えることしかできなかった。
世界は、遥よりも“奴隷コンテンツ”を求めている。
その残酷な事実だけが、
金網の中に沈んでいく彼を押し潰していた。
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