テラーノベル
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最初の報告は、地方の小さな観測所から届いた。
王都から三日ほど離れた、農業地帯。
観測官は若く、経験も浅い。
だから最初は、誰も信じなかった。
「……記録ミスだろう」
王宮観測塔で、学官が言う。
「王宮外で無色星?」
「ありえません」
星は王妃の愛から生まれる。
それがこの国の常識だった。
だから観測官は、もう一度測定した。
空。
同じ場所。
同じ光。
結果は変わらない。
――未発色星。
つまり、色がない。
だが確実に存在する。
「報告書を再送します」
震える手で、彼は記録を送った。
その夜。
王宮観測塔でも同じ星が確認される。
「位置一致……」
学官の声が止まる。
「……王宮外の発生?」
沈黙が落ちる。
それは、ありえないはずだった。
もし本当なら。
王妃制度そのものが崩れる。
その報告は、翌朝には王宮に届いた。
会議室。
学官、貴族、神殿代表。
そして王太子。
「地方の無色星発生は三件」
学官が読み上げる。
「いずれも恋愛関係ではありません」
ざわめき。
「恋愛ではない?」
「はい」
紙をめくる。
「夫婦」
「親子」
「友人」
沈黙。
神殿代表が口を開く。
「不敬だ」
「星は神の祝福」
「王妃の愛から生まれるものだ」
学官は首を振る。
「ですが観測結果は……」
「観測が間違っている」
貴族が言う。
「王宮外で星が生まれるなどありえない」
王太子は黙って聞いていた。
やがて静かに言う。
「ありえないと決めたのは誰だ」
部屋が静まる。
「理論か。
それとも制度か」
誰も答えない。
学官が小さく言う。
「……制度です」
王太子は立ち上がる。
「ならば観測を続けろ」
「殿下」
貴族が声を荒げる。
「王妃制度が崩れます!」
「崩れるなら崩れる」
王太子は冷静だった。
「事実は変わらない」
そのとき、扉が開く。
エリュネが入ってきた。
いつも通り、無色。
「聞きました」
彼女は言う。
「王宮外の星」
学官が答える。
「まだ仮説です。
ですが一致しています」
エリュネは少し考える。
「当然だと思います」
全員が彼女を見る。
「なぜだ」
王太子が聞く。
「星は愛から生まれるのではないからです」
沈黙。
「では何だ」
彼女は空を見る。
昼の窓の向こう。
「選択です」
「選択?」
「誰かを選び続けること」
恋。
友情。
家族。
形は違う。
だが共通するものがある。
「関係です」
部屋は静まり返る。
神殿代表が立ち上がる。
「それは神への冒涜だ」
「愛は神の奇跡だ」
エリュネは首を振る。
「違います」
穏やかな声。
「人間のものです」
その瞬間。
観測塔から鐘が鳴る。
全員が振り向く。
窓の外。
昼の空に、かすかな光。
新しい星。
色はない。
だが確かに存在する。
学官が呟く。
「……また増えた」
エリュネはそれを見る。
胸が、静かに震える。
遠く。
王都の外。
誰かが、誰かを選んだ。
ただそれだけで。
空に星が生まれる。
そしてそのとき。
誰もまだ気づいていなかった。
星は生まれているだけではない。
――どこかで、消え始めてもいた。
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