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王宮の大広間は、昼の光を受けて静かに輝いていた。
高い天井の装飾には金箔が使われ、壁には王家の歴史を描いた大きな絵が並んでいる。
そこに集まった貴族たちは、いつもより多かった。
椅子の並びは整っているが、空気は落ち着かない。
人々は低い声で言葉を交わしながら、何度も入口の方へ視線を向けていた。
今日の議題は一つだった。
王妃。
エリュネの扱いをどうするか。
王太子はまだ姿を見せていない。
だが、議論はすでに始まっていた。
「問題は感情ではありません」
財務卿が言う。
声は落ち着いているが、言葉は硬かった。
「国家の安全です」
彼の前には観測記録が並べられている。
無色星の報告書。
王宮内外で確認された場所と日時が、細かく記されていた。
「この現象は王妃の出現と同時期に始まりました」
彼は指で紙をなぞる。
「王太子殿下の星の変化。王宮外の無色星。さらには各地での報告」
周囲の貴族たちが頷く。
「偶然にしては重なりすぎている」
「もし王妃が原因であるなら」
「国家として管理する必要がある」
誰かが言った。
「隔離という形で」
その言葉に、いくつかの席から同意の声が上がる。
だが反対もあった。
「証拠はない」
年配の貴族が言う。
「疑いだけで王妃を拘束するのは危険だ」
「危険なのは放置することです」
財務卿が静かに返す。
「もし彼女が本当に人の感情に影響を与える存在なら、王家の権威は根底から揺らぐ」
議論はそこで一度止まった。
扉が開いたからだ。
王太子が入ってくる。
歩みはゆっくりしていた。
急いでいる様子はない。
それでも、彼が中央の席に近づくにつれて部屋の空気は確実に変わった。
誰もが言葉を止め、視線を向ける。
王太子は席に着くと、机の上の書類を一度だけ見た。
「続けろ」
短い言葉だった。
財務卿は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます、殿下」
彼はもう一度説明を繰り返した。
無色星の増加、王妃の存在、そして感情干渉の可能性。
声は冷静で、感情はほとんど混ざっていない。
だが結論だけは明確だった。
「よって、王妃を一時的に隔離し、調査を行うことを提案します」
部屋は静かだった。
誰もすぐには言葉を発しない。
王太子は椅子に座ったまま、少しだけ考えるように視線を落とした。
それからゆっくり顔を上げる。
「一つ聞く」
財務卿が頷く。
「何でしょう」
「王妃が原因だという証拠はあるか」
「ありません」
「なら、仮説だ」
「はい」
「その仮説に基づいて王妃を拘束するのか」
財務卿は迷わなかった。
「国家の安全のためなら」
王太子は少し笑った。
嘲笑ではない。だが楽しそうでもない。
「なるほど」
彼は机に肘をつき、指を組んだ。
「ではもう一つ聞く」
部屋の視線が集中する。
「王妃が原因でない可能性は?」
財務卿は答える。
「もちろんあります」
「その場合、何を隔離する」
財務卿は一瞬だけ言葉に詰まった。
王太子は続ける。
「無色星は王宮外でも出ている。
農村、港町、鉱山都市」
彼は観測記録を軽く叩いた。
「この全てを隔離するのか」
誰も答えない。
王太子は椅子から立ち上がった。
「人は理由を欲しがる」
ゆっくりした声だった。
「説明できない現象が起きたとき、原因を一つにまとめたくなる」
彼は会議室を見渡す。
「今回は王妃だ」
沈黙。
「だが」
王太子は言葉を区切る。
「俺は違うと思っている」
誰かが息を呑む。
「無色星は増えている。
王宮外でも。貴族でも平民でも」
彼は窓の方へ歩く。
昼の空はまだ青いが、夜になれば星が見える。
「つまりこれは王妃の問題ではない」
振り返る。
「世界の問題だ」
財務卿が低く言う。
「それでも危険です」
王太子は頷いた。
「そうだろうな」
そして続ける。
「だが」
声は静かだった。
「俺は王妃を隔離しない」
部屋の空気が揺れた。
「殿下」
財務卿が言う。
「これは国家の議題です」
「分かっている」
王太子は答える。
「だからここで言う」
彼は全員を見渡した。
「俺は彼女を選び続ける」
誰も動かなかった。
「現象が何であれ。
星が何であれ」
彼の声は変わらない。
「王妃は王妃だ」
沈黙が続く。
王太子は最後に言った。
「それが不満なら」
少し肩をすくめる。
「星に聞け」
会議はそれで終わった。
その夜、王宮の空には多くの星が浮かんでいた。
金色の星も、青い星も、赤い星も、そしていくつもの無色星も混ざっている。
観測塔の記録には、新しい報告が一つ書き加えられた。
無色星。
場所は王宮。
大広間の上空だった。
麗太
海の紅月くらげさん