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放課後。
黒板に残った文字が、消し残しのまま白く浮いている。
生徒は座るなり言った。
「悪いことじゃないのは、分かってます」
遥は何も言わない。
「先生も。親も。友だちも」
指が膝の上で固まっている。
「期待してくれるんです」
一拍。
「“できると思ってる”って言われる」
沈黙。
「嬉しい、はずなのに」
声が落ちる。
「急に、重くなる」
遥は視線を上げない。
「失敗したらどうしよう、とかじゃなくて」
小さく息を吐く。
「“できる人”で固定されるのが、怖い」
静か。
「次もできなきゃいけないし。落ち込む顔も見せられないし」
一拍。
「逃げたくなる」
教室が静まる。
遥はゆっくり息を吐く。
「期待は、拘束になる」
短い。
生徒が顔を上げる。
「できると思われると、できない自分を出せなくなる」
机に指を置く。
「役割が一つ増える」
沈黙。
「でも、断れないです」
「断らなくていい」
遥は言う。
「ただ、“揺らせ”」
生徒は眉を寄せる。
「揺らす?」
「完璧に応え続けるな」
一拍。
「8割で止めろ」
教室が静かになる。
「たまに、できない日を作れ」
遥の声は低い。
「“できる人”の中に、“できない日”を混ぜろ」
生徒は黙る。
「期待は、固定されると重い」
一拍。
「揺れてると、軽い」
生徒は長く息を吐いた。
「……わざと失敗するんですか」
「違う」
即答。
「全部を差し出すな」
机を軽く叩く。
「余白を残せ」
沈黙。
「余白があるやつは、壊れにくい」
生徒はゆっくり立ち上がる。
椅子の音が小さく響く。
「期待されても、逃げなくていいんですね」
遥は短く答える。
「固定されなければな」
扉が閉まる。
教室に残るのは、
消し残しの白。
期待は、
光に見えて、
重さも持っている。