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昼休みのチャイムが鳴ると同時に、教室はざわめきで満ちた。
その中心を、美桜と取り巻きたち、そして陽キャ男子数人がゆっくりと占領する。
遥は席で教科書を閉じるふりをしているが、手の震えは隠せない。
「ねぇ遥」
美桜が背後から机を軽く叩く。その音だけで、空気が変わる。
「あんたさ──自分が“奴隷”って自覚あるよね?」
クラスが、静まり返った。
誰も助ける気はない。ただ、面白がって見ている。
遥はゆっくり顔を上げた。声はかすれるが、もう沈黙ではない。
「……それ、言わせたいだけだろ」
「言わせたいんじゃなくて、事実の確認でしょ?」
美桜が笑う。笑顔のまま、遥の胸ぐらをつまみ上げる。
「ねぇ、あんたさ。ウチらに逆らえる立場なの? 奴隷ってさ、立場わきまえるもんだよ?」
男子が「お前、言っとけよ」とニヤニヤ囁く。
別の男子が遥の背中を椅子ごと蹴りつけ、ガタンと大きな音が鳴る。
「……痛ぇだろ、普通に」
遥が歯を食いしばって言う。
「は?」
蹴った男子が眉を上げる。
「痛い? 奴隷が人間みたいなこと言ってんじゃねぇよ」
男子の拳が遥の肩へ落ちる。重い。
教室の空気が“暴力を許可する空気”に変わる。
美桜が指を鳴らすと、取り巻きが遥を囲んだ。
「ほら。喋れるじゃん。私らの前だけは黙るくせにさぁ」
「……喋ったら喋ったで殴るくせに」
遥は肩を押さえながら吐き捨てるように言う。
「うわ、態度悪っ」
女子たちがクスクス笑う。
美桜が遥の頬に指を当て、強制的に上を向かせる。
周囲からスマホが一斉に上がった。
「ねぇ、もう一回言ってよ。“俺は奴隷”って。
そしたら続きは優しくしてあげるかも?」
遥は顔をそむけたいが、周囲に腕を押さえられ逃げられない。
「……言わねぇよ。そんなこと」
美桜がため息をつく。
「そ。それそれ。そういう反抗、ウチら大好物」
次の瞬間、男子の一人が机を蹴り飛ばし、遥の膝に強くぶつける。
痛みに体が折れたところを、女子が髪をつかんで引き起こす。
「ほら、奴隷。ちゃんと顔見せて?」
「下向くなよ、奴隷」
「人間のつもり?」
揶揄が降り注ぐ。
遥はかすれた声で返す。
「……俺は、お前らの玩具じゃねぇよ」
教室が一瞬ざわめく。
言い返した──という事実だけで、標的への制裁が濃くなる。
美桜の目つきが変わる。
その変化だけで、遥は「あ、終わった」と理解した。
「じゃあ──その“勘違い”、ちゃんと直してあげるね」
男子が背後から腕をねじ上げた。
女子が胸を押しつけてバランスを崩させ、嘲笑する。
「こうされてんのに? 奴隷じゃないって?」
「都合よく扱われんの、好きなくせに」
「動画回ってるよ。全校に広まるね」
スマホのレンズが、逃げ道を完全に塞ぐ。
遥は歯を食いしばる。
痛い。屈辱。怖い。
それでも、心の奥では小さく反発が燃える。
「……好きじゃねぇって言ってんだろ」
「かわい〜、逆らう姿だけは一丁前〜」
美桜の言葉と同時に、男子の拳が遥の脇腹を撃ち抜く。
膝が崩れ落ちそうになった瞬間、女子が腕をつかんで無理やり立たせた。
「まだ終わりじゃないよ?
奴隷には“教育”が必要だから」
遥の呼吸は乱れ、視界は揺れている。
だが、声は消えない。
「……やめろって言ってんだろ。
これ以上やったら──」
美桜が笑って遮る。
「“奴隷のくせに口答えした”
って、もっと広めるだけだよ?」
遥の言葉は飲み込まれる。
教室の空気は、完全に彼を“笑いものとして扱う準備”に満ちていた。