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ハチ
56
朝の空気が、少しだけ冷たい。 教室の扉の前で、一度だけ深呼吸する。
黒田
扉を開ける。 視線が集まる。 新しい教室。 知らない顔。
教師
教師
指された席に向かう。 机は一つだけ空いている。
黒田
軽く頭を下げる。 反応は薄い。 席に座る。 机の端に、小さく番号が貼られている。
『31』
黒田
違和感。 名簿順なら、自分はもっと前のはずだ。
黒田
チャイムが鳴る。
教師
名簿をめくる音。
教師
生徒A
教師
生徒B
順番に呼ばれていく。 淡々とした声。
教師
生徒C
教師
生徒D
黒田は、背筋を伸ばす。
教師
一瞬、理解が遅れる。
黒田
教室は静かだ。誰も何も言わない。
黒田
思わず声を上げる。
黒田
教師が顔を上げる。 少しだけ、不思議そうに。
教師
教師
ざわつきはない。誰も反応しない。
黒田
振り返る。 机の番号。 そこには。何も書かれていない。
黒田
さっきまであったはずの数字が、消えている。
教師
教師
黒田は黙る。違和感だけが残る。
昼休み。 隣の生徒に声をかける。
黒田
黒田
隣の生徒は、少し考えて。
佐野
あっさり答える。
黒田
佐野は振り返る。
佐野
黒田も振り返る。 そこには。誰もいない机。 でも。違和感。 “最初から誰もいなかった”みたいに、自然すぎる。
黒田
言葉が続かない。 午後の授業。 教師が黒板に何かを書く。 黒田は、ふと気づく前の席の背中。
数。 一、二、三…… 数える。 三十。黒田を含めて。
黒田
じゃあ。 自分は、どこに入っている?
放課後。 教室には、誰もいない。 黒田は、教師の机に向かう。 名簿。 恐る恐る開く。名前が並んでいる。 黒田は、自分の名前を探す。
黒田
黒田の名前。 確かにある。 その横。出席番号の欄。空白。
黒田
そのとき。背後で、声。
教師
振り向く。教師が立っている。
教師
黒田
教師は、名簿を閉じる。
教師
教師
黒田は息を飲む。
教師
沈黙。
教師
一歩、近づく。
教師
黒田
教師
教師
教師
声が低くなる。
教師
黒田は、ゆっくり後ろを見る。 一番後ろ、窓側。自分の席。
黒田
教師
その瞬間。 頭の奥で、何かが切れる。 今日の記憶が、曖昧になる。 自己紹介。 教室に入った瞬間。 ぼやけていく。
黒田
教師は何も言わない。 ただ、静かに黒田を見ている。 黒田は、机に手をつく。 自分の席。 その机に。 うっすらと、数字が浮かぶ。
『31』
黒田
指でなぞる。 その瞬間。 数字が、消える。完全に。 何もなくなる。 教室を見渡す。誰もいない。
いや。 最初から、三十人しかいなかった。 黒田は、立っている。 でも。 どこにも“自分の位置”がない。
翌日。
教師
教師
生徒A
順番に呼ばれていく。
教師
生徒D
教師
静かな教室。 誰も、足りないとは思わない。 ただ一つ。 一番後ろ、窓側の席だけが。 空いたまま。
そこに、誰も座らない理由を。
誰も、思い出せなかった。
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