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ハチ
56
夜。 部屋の電気はつけたまま。カーテンは閉めている。
中村
机の上。教科書の横。 小さな人形。 昨日までは、棚の上にあったはず。
中村
家には自分しかいない。 人形を持ち上げる。軽い。 普通のぬいぐるみみたいな感触。 でも。顔。 目が、妙にリアルだ。
中村
棚に戻す。 今度はしっかり奥に置く。 中村は、ベッドに座る。 視線を外す。数秒。違和感。 すぐに、棚を見る。 人形は── さっきより、手前にある。
中村
近づく。確かに動いている。
中村
人形を、もう一度奥に置く。 今度は。目を、逸らさない。 じっと見る。 数秒。動かない。
中村
理解する。
中村
スマホを取り出す。 動画を撮る。 カメラ越しに、人形を見る。 画面の中の人形は、動かない。
中村
スマホを机に立てかける。 カメラは人形を向いている。 中村は、ベッドに横になる。 少し安心する。 目を閉じる。数秒。違和感。 すぐに起き上がる。 机を見る。 スマホは、倒れている。画面は暗い。 そして。人形は。 机の端に、いる。
中村
スマホを拾う。 動画は途中で止まっている。 再生する。 最初は普通。 途中。画面が揺れる。 そして。一瞬だけ。
人形の目がカメラを見ている。
中村
動画が終わる。 ゆっくりと、顔を上げる。 机の上。 人形は、こっちを向いている。
中村
人形は動かない。 でも。確実に、距離が近い。 中村は、椅子を引く。後ろに下がる。 視線は、外さない。
中村
静か。動かない。 そのとき。 スマホの画面が、勝手につく。 さっきの動画が、再生される。 中村は、思わずそっちを見る。 ほんの一瞬。視線が外れる。 すぐに戻す。 机。人形は、いない。
中村
心臓が跳ねる。 背後。気配。振り向けない。 ゆっくり、首を動かす。 そこに。人形が立っている。 さっきより、大きい。膝くらいの高さ。
中村
人形の口が、少し開く。声はない。 でも。
笑っている。
中村は、後ずさる。 壁に当たる。逃げ場がない。 視線を、外せない。 でも。瞬き。ほんの一瞬。 世界が切り替わる。 目の前。人形が、すぐそこにいる。 顔が、近い。
中村
呼吸が止まる。 人形の目。中村を、見ている。 いや。違う。
中村
気づく。
中村
人形が、口を開く。初めて、声が出る。
人形
一歩。
人形
その瞬間。 部屋の電気が、消える。 暗闇。 何も見えない。 中村は、目を見開く。 何も見えない。何も。でも。
見られている。
確実に。すぐ近くで。
翌朝。 部屋。明るい光。 机の上。スマホが置かれている。 動画が再生されている。 画面の中。部屋。
そして。
椅子に座る、中村。 微動だにせず。 じっと。 画面のこちらを見ている。 その目は。人形と、同じだった。