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放課後。
部活の声が遠くで反響している。
生徒は椅子に深く座らず、すぐ立てる姿勢のままだ。
「……変かもしれないんですけど」
遥は黙っている。
「褒められると、ちょっと嫌なんです」
一拍。
「嬉しくないわけじゃないんですけど」
目線が泳ぐ。
「次もできるって思われるのが怖い」
教室は静か。
「この前も」
少しだけ苦笑する。
「“頼りにしてる”って言われて」
沈黙。
「急に、失敗したくなった」
遥はわずかに視線を上げる。
「わざと?」
「いや……」
首を振る。
「わざとじゃないけど、力抜いちゃうというか」
一拍。
「うまくいくと、次もやらなきゃいけないじゃないですか」
声が低くなる。
「できる人って思われたら、ずっとできなきゃいけない」
沈黙。
遥は短く言う。
「縛られる感じか」
生徒は少し驚いてから頷く。
「そうです」
息を吐く。
「期待って、重い」
静か。
「裏切る未来が見えるからな」
遥は淡々と。
生徒の指が止まる。
「……はい」
小さい声。
「どうせ、ずっとは続かないし」
一拍。
「だったら最初から、できない人でいた方が楽かなって」
教室の空気が少し重くなる。
遥は机に肘をつかない。
「逃げ道を残してる」
短い。
「失敗したときの衝撃を小さくするために」
沈黙。
生徒は否定しない。
「でも」
迷う。
「本当は、ちゃんとできたらいいなとも思うんです」
小さく笑う。
「矛盾してますよね」
「普通だ」
即答。
一拍。
「期待が怖いのは、裏返せば応えたいと思ってるからだ」
静か。
「どうでもいい相手の期待は、怖くならない」
生徒は黙る。
その言葉が少しだけ刺さった顔。
「……じゃあ」
ゆっくり言う。
「どうしたらいいですか」
遥は少し考える。
「全部に応えるな」
短い。
生徒が顔を上げる。
「選べ」
一拍。
「応えたいやつだけ、全力出せ」
静か。
「それ以外は、八割でいい」
生徒は少し笑う。
「八割って、中途半端ですね」
「十分だ」
遥は言う。
「十割を常態にするな」
沈黙。
「できる人でい続ける必要はない」
低い声。
「できる時がある人でいい」
教室が静まる。
生徒はしばらく黙ってから頷く。
「……期待って、受け取らなきゃいけないわけじゃないんですね」
「勝手に飛んでくる」
短い。
「拾うかどうかは、お前の自由だ」
生徒は立ち上がる。
今度は少しだけ背筋が伸びている。
扉の前で振り返る。
「次、全力出してみます」
遥は言う。
「疲れたらやめろ」
それだけ。
扉が閉まる。
期待は光に似ている。
当たれば明るい。
強すぎれば、目が焼ける。
遥は窓の外を見る。
眩しさを直視する必要はない。
選んで立てばいいだけだ。