「それ、俺じゃない気がするんです」
「何が」
「褒められるとき」
「例えば?」
「“優しいね”とか。“気が利くね”とか」
「言われるんだ」
「はい。けっこう」
「で、違う?」
「違うっていうか……」
少し間があく。
「その人が見てるの、俺じゃないと思うんです」
「うん」
「たぶん、“そう見えた瞬間”を褒めてるだけで」
「うん」
「本当の俺が優しいわけじゃない」
「じゃあ何?」
「……普通にしてただけです」
「普通?」
「怒らないようにしてるとか。空気壊さないようにしてるとか」
「それ優しさじゃないの」
「違います」
即答だった。
「ただ面倒を避けてるだけです」
「でも相手は優しいって言う」
「だから」
小さく笑う。
「間違ってるんですよ」
「間違ってる?」
「はい」
「どこが」
「俺のことを、ちゃんと見てない」
静かな声だった。
「“優しい人”ってラベルを貼ってるだけ」
「それが嫌?」
「嫌というか」
少し考える。
「怖いです」
「怖い?」
「そのラベルで好かれてるなら」
「うん」
「本当の俺が出たら終わるじゃないですか」
沈黙。
遥は少し首を傾ける。
「本当のおまえって何」
「……わかんないです」
「じゃあ」
「はい」
「何が出ると終わると思ってるの」
相談者は視線を落とす。
「たぶん」
「うん」
「普通の人です」
「普通?」
「優しくもないし、特別でもない」
「それで終わる?」
「終わると思います」
遥は少しだけ笑った。
「じゃあ」
「はい」
「みんな終わってるね」
「え」
「普通しかいないから」
相談者が顔を上げる。
「でも」
「うん」
「“優しい人”って思われてるなら」
「うん」
「それ守らないといけないじゃないですか」
遥は肩をすくめる。
「守らなくていいよ」
「でも」
「壊れたら」
少し間を置く。
「その人はおまえのこと、ちゃんと見てなかっただけ」
相談者は黙る。
遥が続ける。
「ラベルが好きな人は」
「うん」
「人じゃなくてラベルと付き合ってる」
静かな声だった。
「おまえと付き合ってるわけじゃない」
長い沈黙。
相談者がぽつりと聞く。
「じゃあ」
「うん」
「褒められたとき、どうすればいいですか」
遥は少しだけ考える。
「そのまま受け取ればいい」
「でも違う」
「違ってもいい」
「え」
「人はだいたい」
少し笑う。
「勘違いしながら生きてる」
「……」
「たまに当たる。
それで十分」
相談者はしばらく黙っていた。
それから小さく言う。
「じゃあ」
「うん」
「優しいって言われたら」
遥は軽く頷く。
「ありがとう、でいい」
少しだけ間。
「たぶん」
「うん」
「それで、その人は満足する」






