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夕方。
教室の空気が少し冷えている。
生徒は座ると同時に言った。
「サボってるわけじゃないです」
遥は何も聞いていない。
「ちゃんとやってます。課題も。部活も。家のことも」
早口ではない。
でも、止まらない。
「でも、何もしてない時間があると」
一拍。
「急に、焦るんです」
机の端を強く押す。
「今日、何も積んでない、って」
沈黙。
「成果がない日が、怖い」
遥は視線を上げない。
「休んでるだけなのに、存在価値が減る感じがして」
声が少し低くなる。
「このまま、何者でもないまま終わるんじゃないかって」
静か。
廊下の音が遠くなる。
「だから、予定を詰めます」
苦笑する。
「空白があると、落ち着かない」
遥はゆっくり息を吐く。
「空白は、考える時間になる」
短い。
生徒は黙る。
「考えると、怖い?」
しばらくして、頷く。
「……はい」
遥は続ける。
「頑張ってる間は、自分を疑わなくて済む」
教室が静まる。
「動いてると、“存在してる理由”ができる」
一拍。
「止まると、理由が消える」
生徒の指が止まる。
「だから怖い」
否定しない。
「じゃあ、休まない方がいいんですか」
小さな声。
遥はすぐ答えない。
「休め」
短い。
生徒が顔を上げる。
「ただし、成果ゼロの休みじゃなくていい」
一拍。
「“回復した”を成果にしろ」
静か。
「回復も、積みだ」
遥は机を軽く叩く。
「呼吸が整った。寝た。何も考えなかった」
それだけでいい。
「それを“無”にするから、怖くなる」
生徒は長く黙る。
「……休むのも、やること、ですか」
「そうだ」
遥は言う。
「存在は、常に証明しなくていい」
一拍。
「生きてるだけで、もう動いてる」
教室が静かになる。
生徒はゆっくり立ち上がる。
さっきより、肩の高さが少しだけ違う。
扉の前で止まる。
「今日、何も積まなくてもいいですか」
遥は短く返す。
「回復したら、積んだことにしろ」
扉が閉まる。
教室には、
まだ夕方の冷気が残っている。
空白は、
消えていない。
でも、
敵でもなかった。