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放課後の空気は、昼より軽いはずなのに、
教室の隅だけ重かった。
机を二つ並べただけの相談スペース。
生徒は座るなり、スマホを机に伏せて置いた。
画面は暗いまま。
「……返事はしてるんです」
前置きのように言う。
遥は何も言わない。
「グループLINEも。
個別のメッセージも。
既読つけて、
ちゃんと返してるんです」
指先でスマホの縁をなぞる。
「でも、
会話には入れてない感じがして」
遥が少しだけ視線を向ける。
「入れてない?」
「流れが、もうできてて」
生徒は、言葉を選ぶ。
「私が返すと、一瞬止まるんです」
沈黙。
「で、また別の話題に行って。
そこには、もう入れない」
小さく笑う。
「無視されてるわけじゃないんです。
ちゃんと返ってくるし。
スタンプも来るし」
一拍。
「でも、会話の中心にはいない」
遥は机の端を見る。
「空気は、読めてる方か」
「……はい」
「だから、
タイミング外さないようにしてる」
生徒は驚いた顔をする。
「分かりますか」
「分かる」
短い返事。
「タイミング合わせて、
邪魔しないようにして、
でも気づいたら、
席がない」
生徒は、息を吐いた。
「そうです」
「それ、能力の問題じゃない」
遥は淡々と言う。
「位置の問題だ」
生徒は、黙る。
「会話ってな、
内容より
“流れにいるかどうか”だ」
遥は続ける。
「流れの外から、
正しいこと言っても、
入れない」
生徒は、ゆっくり頷いた。
「……どうしたらいいですか」
「二択」
即答。
「流れの外にいるまま、
気にしない練習するか」
一拍。
「一回だけ、
流れを止めるか」
生徒は顔を上げる。
「止める?」
「全員にじゃなくていい。
一人に」
遥は机を指で軽く叩いた。
「“今、これ話したい”
それだけ送る」
生徒は戸惑う。
「急じゃないですか」
「急だ」
遥は否定しない。
「でも、
流れに乗るだけだと、
ずっと外側だ」
生徒はスマホを見る。
画面はまだ暗い。
「怖いです」
「分かる」
「返事来なかったら」
「今と同じだ」
静かな声。
「でも、
一回でも返ってきたら、
そこが入口になる」
生徒は、考え込む。
「……私、
邪魔してる気がして」
「邪魔かどうかは、
向こうが決める」
遥は淡々と。
「最初から
自分で決めるな」
沈黙。
廊下で笑い声が弾けて、すぐ遠ざかる。
生徒はスマホを手に取る。
画面をつけて、消す。
「……一回だけ、やってみます」
遥は何も言わない。
生徒は立ち上がる。
椅子が小さく鳴る。
扉の前で止まり、
振り返りはしない。
そのまま出ていく。
残った静けさの中で、
遥は机の位置を少しだけ直す。
返事は、
返ってくるかもしれないし、
来ないかもしれない。
それでも、
送った側の位置は、
少しだけ変わる。
廊下の奥から、
また別の足音が近づいてきていた。