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放課後の窓は半分だけ開いていて、
冷たい風が黒板の粉をゆっくり動かしていた。
机を二つ並べただけの相談スペースに来た生徒は、
座る前に一度、周りを見た。
誰もいないのを確認してから、椅子を引く。
「……仲は、いいんです」
前置きみたいに言う。
遥は頷きもしない。
ただ、続きを待つ。
「一緒に帰るし。
休み時間も話すし。
グループにもいるし」
指が、袖の端をつまむ。
「でも、
ずっと気を遣ってて」
言い切ったあと、少し黙る。
「嫌われたくないとかじゃなくて」
考え直す。
「……いや、
嫌われたくないのもあるけど」
小さく息を吐く。
「自分がちょっとズレたら、
崩れそうな感じがして」
遥は、机の上の光を見る。
「崩れたこと、あるか」
生徒はすぐ答えない。
「……一回、
距離できたことあります」
「どう戻った」
「私が合わせました」
即答だった。
沈黙。
「向こうが悪いとかじゃないんです。
たぶん、
どっちも悪くなくて」
生徒は続ける。
「でも、
戻る時、
私が“元通り”にしたんです」
遥は短く息を吐く。
「それ以降、
気を抜けない」
生徒は頷く。
「はい」
「楽しいは、あるか」
少し間。
「……あります」
「でも、
楽しいの後に、
疲れが来る」
生徒は顔を上げた。
「分かりますか」
「分かる」
遥は淡々と。
「維持してるからだ」
生徒は黙る。
「関係って、
自然に続くやつと、
維持が必要なやつがある」
遥は続ける。
「今のは、
維持型だ」
生徒は苦笑した。
「修理みたいですね」
「近い」
短い返事。
「ただな、
維持し続けると、
自分がどこか分からなくなる」
生徒の手が止まる。
「最近、
何が素なのか分からないです」
「だろうな」
遥は否定しない。
「一個だけ、やれ」
「……何を」
「一回、
小さくズレろ」
生徒は眉を寄せる。
「ズレる?」
「全体じゃなくていい。
一人に」
遥は机を軽く叩く。
「“今日は帰らない”
“その話、分かんない”
“ちょっと無理”」
区切る。
「それだけでいい」
生徒は不安そうに笑う。
「空気、変わりますよね」
「変わる」
遥は即答。
「でも、
崩れるかどうかは、
やってみないと分からない」
沈黙。
外で、ボールが転がる音。
「……崩れたら」
生徒が言う。
「その時は、
今より本音に近い位置になる」
遥の声は低い。
「維持だけの関係は、
いずれ疲れて終わる」
生徒は机を見る。
「終わらせたいわけじゃないんです」
「分かってる」
「ただ、
ずっと気を遣ってるの、
しんどくて」
遥は頷かない。
でも否定もしない。
「一回だけでいい」
静かな声。
「小さくズレろ」
生徒は深く息を吸う。
「……一回だけ、
やってみます」
立ち上がる。
椅子の脚が小さく鳴る。
扉の前で止まるが、
振り返らない。
そのまま出ていく。
残った教室は、
さっきより少し静かだった。
気を遣うことで守ってきた関係と、
気を遣わないと壊れる関係は、
似ているようで違う。
遥は机の位置を整える。
次の足音が、
廊下の奥から近づいてきていた。