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放課後の空気は、少し湿っていた。
窓が開いているのに、教室の奥は静かだ。
机を二つ寄せた相談スペースに、生徒が座る。
中学生。制服のリボンが少し曲がっている。
直す気はないらしい。
「……別に、誰かが嫌いとかじゃないんです」
遥は頷きもせず、先を待つ。
「ただ、
自分の位置だけ、分かるっていうか」
生徒は、指で机の木目をなぞる。
「テストとか。
部活とか。
友だちの中でも」
一拍。
「一番じゃないけど、
下でもない。
でも、
“選ばれる側”じゃない」
遥は、視線だけ向ける。
「副メンバーとか、
二番目とか、
“いたら助かる”くらい」
生徒は苦笑した。
「いなくても回るけど、
いたら便利、みたいな」
外から、笑い声が少しだけ聞こえた。
すぐ遠ざかる。
「比べてるつもりないんです。
でも、
並べられると分かる」
遥は短く言う。
「見えるよな」
生徒は、少しだけ驚いた顔をした。
「……はい」
「順位とかじゃなくても、
選び方で分かる」
遥は机の上を指でなぞる。
「誰に最初に声かけるか。
誰に任せるか。
誰を呼ぶか」
生徒は、ゆっくり頷く。
「自分は、
二番目に呼ばれることが多いです」
「便利枠だな」
きつくはない言い方。
生徒は小さく笑う。
「便利枠って、
悪いわけじゃないんですよね」
「悪くない」
遥は即答する。
「ただ、
“便利で終わる”と、
自分の価値がそこに固定される」
生徒は黙る。
「……一番になりたいわけじゃないんです」
「分かる」
遥は頷かないまま言う。
「でも、
選ばれないのが続くと、
自分で自分を下げるようになる」
生徒の指が止まる。
「期待しないようにする」
遥は続ける。
「どうせ、って先に思う。
呼ばれなくても平気な顔する」
生徒は、目を伏せた。
「……してます」
教室の時計が、小さく音を立てた。
「一個だけ、
やめてみろ」
遥が言う。
「何を」
「“最初から引く”の」
生徒は顔を上げる。
「呼ばれなかった時じゃなくて、
呼ばれる前の段階」
遥は続ける。
「やりたいなら、
先に手を上げろ」
生徒は戸惑う。
「出しゃばりって思われません?」
「思うやつもいる」
遥はあっさり言う。
「でも、
便利枠からは外れる」
沈黙。
生徒は、ゆっくり息を吸う。
「怖いです」
「だろうな」
否定しない。
「でも、
ずっと二番目に慣れると、
一番の席が空いてても座れなくなる」
生徒の表情が、少しだけ動いた。
「……空いてること、あるんですか」
「ある」
遥は短く言う。
「ただ、
手を上げるやつが少ないだけだ」
生徒は、少し考える。
「一回だけ、
やってみます」
「一回でいい」
遥はそれ以上言わない。
椅子が引かれる。
立ち上がる気配。
扉の前で、少し止まる。
「……便利枠でも、
悪くないですよね」
「悪くない」
遥は答える。
「でも、
それしかないと思うな」
生徒は小さく頷いた。
扉が閉まる。
放課後の光は、もう薄い。
机の影が長く伸びている。
遥は椅子の位置を少しだけ直した。
次の足音が、廊下の奥から近づいてくる。