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#読み切り
放課後の校舎は、昼よりも静かだった。
部活の音が遠くにあるぶん、近くの空気が薄くなる。
机を二つ並べただけの相談スペースに、生徒が来る。
高校生。カバンを足元に置いたまま、座るか迷ってから椅子に腰を下ろした。
「……誰かといると、疲れるんです」
遥は視線を上げない。
黒板の端に残ったチョークの粉を見ている。
「でも、
一人だと落ち着かない」
生徒は苦笑した。
「どっちがいいのか、分からなくて」
沈黙が落ちる。
廊下の向こうでドアが閉まる音。
「一人のときは」
遥が低く言う。
「何が気になる」
生徒は少し考えた。
「……置いてかれてる感じ」
「誰に」
「分からないです。
でも、みんな何かしてる気がして」
スマホの画面を触るふりをして、指が止まる。
「誰かといると?」
「合わせてる感じがします。
話題とか、テンションとか。
嫌じゃないけど、
終わるとすごい疲れる」
遥は頷かないまま聞く。
「帰った後、
一人で落ち着くまで時間かかる」
生徒は目を上げた。
「……はい」
「回復に時間使ってる」
短い言葉。
「なのに、
回復したらまた不安になる」
生徒は小さく笑った。
「そうです。
回復したのに、
また誰か探してる」
教室の窓が風で少し揺れた。
「どっちも必要なんだろ」
遥が言う。
「人といる時間と、
一人の時間」
生徒は肩をすくめる。
「バランスが分からないです」
「分からなくていい」
遥は即答した。
「今は、
疲れた後に回復してるなら正常だ」
生徒は少し驚いた顔をする。
「普通なんですか」
「普通」
遥は続ける。
「ただな、
回復の時間を“無駄”扱いすると崩れる」
生徒は考える。
「……無駄だと思ってます」
「だろうな」
責めない。
「何もしてない時間って、
遅れてる感じするからな」
外からボールの音が一度だけ響いた。
「一個、決めろ」
遥が言う。
「何を」
「回復の時間は、
予定に入ってるって扱いにする」
生徒は戸惑う。
「予定?」
「人と会うのと同じ」
遥は机を指で叩く。
「一人で戻る時間。
それがないと、
次に行けない」
生徒は、ゆっくり頷く。
「……回復しないまま、
次入れてました」
「多いな」
遥は淡々と。
「それだと、
どっちも嫌になる」
生徒は息を吐いた。
「一人も疲れるし、
人とも疲れる」
「回復が足りてないだけだ」
短く言う。
沈黙。
「……少し、
安心しました」
遥は返事をしない。
椅子が引かれる。
生徒が立ち上がる。
扉の前で少し止まる。
「また来てもいいですか」
「来たいときでいい」
それだけ。
扉が閉まる。
静けさが戻る。
遥は机の影を見る。
「回復できるやつは、
ちゃんと戻れる」
誰に向けるでもなく、呟いた。
廊下の奥から、また足音が近づいてくる。
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