テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後の校舎は、昼よりも静かだった。
部活の音が遠くにあるぶん、近くの空気が薄くなる。
机を二つ並べただけの相談スペースに、生徒が来る。
高校生。カバンを足元に置いたまま、座るか迷ってから椅子に腰を下ろした。
「……誰かといると、疲れるんです」
遥は視線を上げない。
黒板の端に残ったチョークの粉を見ている。
「でも、
一人だと落ち着かない」
生徒は苦笑した。
「どっちがいいのか、分からなくて」
沈黙が落ちる。
廊下の向こうでドアが閉まる音。
「一人のときは」
遥が低く言う。
「何が気になる」
生徒は少し考えた。
「……置いてかれてる感じ」
「誰に」
「分からないです。
でも、みんな何かしてる気がして」
スマホの画面を触るふりをして、指が止まる。
「誰かといると?」
「合わせてる感じがします。
話題とか、テンションとか。
嫌じゃないけど、
終わるとすごい疲れる」
遥は頷かないまま聞く。
「帰った後、
一人で落ち着くまで時間かかる」
生徒は目を上げた。
「……はい」
「回復に時間使ってる」
短い言葉。
「なのに、
回復したらまた不安になる」
生徒は小さく笑った。
「そうです。
回復したのに、
また誰か探してる」
教室の窓が風で少し揺れた。
「どっちも必要なんだろ」
遥が言う。
「人といる時間と、
一人の時間」
生徒は肩をすくめる。
「バランスが分からないです」
「分からなくていい」
遥は即答した。
「今は、
疲れた後に回復してるなら正常だ」
生徒は少し驚いた顔をする。
「普通なんですか」
「普通」
遥は続ける。
「ただな、
回復の時間を“無駄”扱いすると崩れる」
生徒は考える。
「……無駄だと思ってます」
「だろうな」
責めない。
「何もしてない時間って、
遅れてる感じするからな」
外からボールの音が一度だけ響いた。
「一個、決めろ」
遥が言う。
「何を」
「回復の時間は、
予定に入ってるって扱いにする」
生徒は戸惑う。
「予定?」
「人と会うのと同じ」
遥は机を指で叩く。
「一人で戻る時間。
それがないと、
次に行けない」
生徒は、ゆっくり頷く。
「……回復しないまま、
次入れてました」
「多いな」
遥は淡々と。
「それだと、
どっちも嫌になる」
生徒は息を吐いた。
「一人も疲れるし、
人とも疲れる」
「回復が足りてないだけだ」
短く言う。
沈黙。
「……少し、
安心しました」
遥は返事をしない。
椅子が引かれる。
生徒が立ち上がる。
扉の前で少し止まる。
「また来てもいいですか」
「来たいときでいい」
それだけ。
扉が閉まる。
静けさが戻る。
遥は机の影を見る。
「回復できるやつは、
ちゃんと戻れる」
誰に向けるでもなく、呟いた。
廊下の奥から、また足音が近づいてくる。