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廊下の明かりは落ち、館の奥は黒い影が連なるだけだった。
その暗闇に、いとこたちのにやけた顔だけが浮かんで見える。
「ほら、反抗してみろよ。昼より静かにできるからさ」
いとこのひとりがタオルの端を指でつまむ。
遥の体がひくっと震えた。
「触んなって言ったよな?」
遥は低く押し殺した声で言う。
その一言に、いとこたちの笑いが弾けた。
「うわ、反抗モード。いーね」
「すぐ黙るクセに、最初だけ強がるよな 」
「落とすまでやれって顔してるし」
遥は距離をとろうと一歩下がる。
だが背後には壁。
逃げ場など最初からない。
ひとりがタオルを引く。
遥が慌てて握り返す。
その“反応”すべてが、いとこたちの笑いの燃料になった。
「お前それしか守るもん無いんだもんなぁ」
「ねぇ、落ちたら拾える? 拾ってる間に何されると思う?」
「やべ、考えただけでウケる」
背の高いいとこが遥の手首を掴み、ぐっと引き離した。
バランスを崩し、タオルがずるっとずれる。
遥は反射的に身体をひねり、必死に押さえる。
「あはは! その動き、ガチで必死じゃん」
「ほらほら、もっとやってよ、“守ってますポーズ”」
「動画に撮りてぇ。年一の恒例イベントだし」
そこへ──
階段の上から軽い足音がした。
顔を覗かせた女子のいとこが二人。
男子たちが呼んだらしい。
「なに? 夜なのにこんな集まって……あ、遥?」
「やっば、タオル一枚じゃん」
女子特有の冷えた嘲笑が飛んだ。
「ねぇ、タオルってさ、普通“落ちる”んだよ?」
「なんでまだついてるの? 落としてみてよ」
遥は歯を食いしばって睨む。
女子たちは肩をすくめ、あざけるように笑った。
「その顔で睨んでるつもり? かわいくも怖くもないんだけど」
「ほら男子、もっと追い込んで。落ちた瞬間、教えてね」
男子たちが女子の言葉でさらに盛り上がる。
「だってさ。女のリクエストは最優先だろ?」
「ほら遥、おまえ“拒否権ナシ”って昼に言われたよな?」
一気に手が伸びる。
タオルの端をつまむ者、腰に触れて引こうとする者──
遥は必死に押さえるが、人数が違いすぎる。
「ちょっ……やめ、ろ……」
声が震え、語尾が崩れた。
「ほら、怖がってる。めっちゃ効いてるじゃん」
「反抗どこ行った? さっきの強気どこー?」
「タオルってさ、こうやって持つと弱いんだよ?」
ぐい、と強く引かれ、遥の体が前に傾く。
タオルがついに半分まで外れかかる。
女子のひとりが、口元を手で隠して笑いながら言った。
「落ちる瞬間、ちゃんと見せてね?」
「ほら……“ほら落ちるよ、落ちますよ〜”って言ってみて」
遥は口を閉ざした。
沈黙。それは弱さの証として解釈される。
「黙ったぞ」
「完全にビビってる」
「はい、ラストいくよー」
三人が同時にタオルを引いた。
遥は両手で必死に押さえる──
だが、多勢に無勢。
タオルが、ばさっと床に落ちた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、笑い声が廊下に爆ぜた。
「落ちたーー!」
「やっば、ほんとに守れねぇの」
「逃げても無駄って学んだ?」
遥は床に膝をつき、震える腕でタオルを拾う。
その姿に女子が笑った。
「拾うの遅っ。情けな……」
「ねぇ動画撮ればよかったね。“拾うとき一番惨め説”証明じゃん」
タオルを握る遥の指が白くなる。
(……何やってんだ俺は)
(今日、何回踏みにじられたら……いや……もう数える意味もねぇ)
ただ息が苦しい。
女子が思い出したように言った。
「あ、そうだ服の場所。教えてあげよっか」
一瞬だけ、空気が止まった。
遥が顔を上げる。
女子はにっこり笑って──
「外の物置。鍵、閉めたけどね」
遥の背筋が粟立つ。
「鍵……?」
乾いた声が喉の奥から漏れた。
男子が追い打ちをかける。
「しかもさ、鍵ここにあるでしょ?」
ポケットを叩く。
「渡すと思う?」
「渡す気ねぇから言ってんだよ」
女子も続ける。
「明日みんなで朝ご飯でるよね? そのときどうするの?」
「タオルで出る? それとも泣きながら取りに来る?」
「どっちでもいいけど、絶対誰かに見られるよ?」
遥は目を伏せた。
(……終わった)
(逃げ道、どこにもない)
いとこたちは、恐怖に沈むその表情を見てさらに笑った。
「はい、“夜の第二ラウンド”終了〜」
「続きは明日もできるよな?」
「年一の楽しみなんだから、壊れんなよ」
遥は言葉を失い、タオルを握りしめたまま動けなかった。