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ハチ
56
教室の一番後ろ、窓際。 その席は、ずっと同じだった。 入学してから、一度も変わっていない。
神谷
朝、教室に入ると、もう決まっている。 机の上の名札。
“神谷”
他の席替えは、何度もあったのに。 ここだけ、動かない。 担任も何も言わない。 最初は、ただの偶然だと思っていた。 でも。三ヶ月目で、気づいた。 ――“ここに固定されている”。 そして。この席の、もう一つの特徴。 後ろに、誰もいないはずなのに。 いつも、気配がある。
神谷
振り返っても、誰もいない。 でも。ノートが、わずかに動く。 椅子が、軋む。 誰かが、“座り直す”みたいに。 昼休み。 神谷は、席を離れる。 できるだけ、遠くへ。 廊下。階段。校庭。 でも。戻ってくると。 必ず、椅子が少し引かれている。 ――誰かが座っていたみたいに。
ある日。
女子生徒
神谷
女子生徒
笑いながら言う。 でも、目は笑っていない。
神谷
女子生徒
指をさす。 机の上。 ノートが、二冊ある。 神谷のじゃない。 見たことない字。 でも。毎日、少しずつ増えている。
女子生徒
教室が、くすくす笑う。 その日から。 “もう一人”は、扱われるようになる。
男子生徒
神谷
男子生徒
空気に向かって、話しかける。 でも。返事はない。 ただ。椅子が、少し動く。 それだけで、笑いが起きる。
男子生徒
次の日。 神谷の机に、落書き。
“無視すんな”
その下に、別の字。
“してない”
神谷
消す。 でも、次の日にはまた増える。
“見てるのに”
“なんで気づかないの”
文字が、少しずつ“感情”を持ち始める。 神谷は、席を変えようとする。 担任に言う。
神谷
担任は、困った顔をする。
担任
神谷
担任
それ以上、話が通じない。
夜。 神谷は、夢を見る。 教室。自分の席。 後ろに、誰かがいる。 顔は見えない。 でも、声だけ。
??
振り返ろうとすると、止められる。 肩を、掴まれる。
??
耳元で、囁く。
??
朝。 目が覚める。 教室に行く。 やっぱり、同じ席。 神谷は、座る。 その瞬間。 はっきり分かる。 ――後ろに、いる。 今までより、近い。
神谷
返事はない。 でも。机に、文字が浮かぶ。
“やっと座ってくれた”
神谷
少し間。そして、ゆっくり。
“ずっと一緒にいること”
神谷は、立ち上がる。 椅子を蹴る。
神谷
その瞬間。 体が、動かなくなる。 見えない何かに、押さえつけられる。 椅子に、座らされる。 ゆっくりと。
神谷
耳元。 すぐ後ろ。 息がかかる距離。
??
初めて、はっきりした声。 感情がある。 怒りでも、喜びでもない。 ただ。
“執着”。
??
教室の空気が、少し歪む。 周りの生徒が、ぼやける。 名前も、顔も。
神谷
??
ノートが、勝手に開く。 そこに、写真。 クラスの集合写真。 でも。 一人だけ、黒く塗りつぶされている。 その位置。 神谷の、隣。
??
声が、近づく。
??
神谷の肩に、重み。 見えない手。 逃げられない。
??
ゆっくり、囁く。
??
その瞬間。 神谷は気づく。 席替えがなかったんじゃない。 ――“動けなかった”。
??
教室が、完全に静まる。 周りの生徒が、こちらを見ない。 最初からいなかったみたいに。 神谷の机に、最後の文字。
“これで、二人分”
その日から。 出席は、一人分のまま。 でも。 椅子は、必ず二つ分、軋む。