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ハチ
56
教室は、静かだった。 昼休みなのに、誰も大きな声を出さない。 ただ一人を除いて。
早川
机を蹴る音が響く。 その前に座るのは、黙ったままの生徒。
白石
早川
周りの生徒は笑う。 でも、どこか引いている。 ――ここ最近、少しおかしいからだ。 昨日から。 白石は、何をされても“反応しない”。 叩かれても。 物を隠されても。 呼ばれても。 ただ、黙っている。
早川
白石の頬に手が伸びる。その瞬間。
白石
小さな声。初めての言葉。 教室が、一瞬だけ静まる。
早川
白石は顔を上げる。 目が、少しだけ違う。
白石
笑っていないのに、口元だけがわずかに歪む。
早川
白石
早川
白石
その瞬間。 早川の体が、わずかに揺れる。 何も触れていないのに。
――バン。
机に、顔から叩きつけられる。 教室が凍る。
早川
誰も、何もしていない。 でも、確かに。 “同じ強さで”。“同じ角度で”。 叩きつけられた。
白石
静かに数える。 誰も笑わない。 誰も動けない。
早川
立ち上がろうとした瞬間。
――バン。
もう一度。 同じ場所に、同じように。 早川の顔が叩きつけられる。
白石
女子生徒
男子生徒
白石
視線が、全員に向く。
白石
沈黙。 白石は、ゆっくり教室を見渡す。 一人ずつ。
白石
その目が止まる。 別の生徒。 高野。
白石
高野
言い終わる前に。
――ガン。
椅子ごと、後ろに倒れる。 後頭部が床にぶつかる音。
白石
高野
白石
また、音。
――ガン。
同じように、同じ場所に。
白石
教室の空気が、壊れる。
女子生徒
白石
白石は、ノートを開く。 そこには、びっしりと名前が書かれている。 順番付きで。
白石
一番下の名前。
“白石”
誰かが気づく。
男子生徒
白石は、少しだけ笑う。
白石
教室が、さらに静まる。
白石
誰も理解できない。
白石
その瞬間。 白石の体が、少し揺れる。
――コツン。
机に、軽く額が当たる。
白石
誰も触れていない。
白石
ゆっくり、顔を上げる。
白石
その瞬間。 教室の空気が、元に戻る。 音も、光も、普通に。 早川は床に倒れたまま、動かない。 高野も、起き上がれない。 誰も、笑わない。 ただ。 誰かが、小さく言う。
女子生徒
白石は、答えない。 ただ、ノートを閉じる。 その表紙に、新しい文字が浮かぶ。
“未記入”
白石の手が止まる。 ゆっくり開く。 そこには、さっきまでなかった名前。 クラス全員分。 そして。最後に。 “もう一人”
白石
教室の後ろで、椅子が引かれる音。 誰もいなかった席。 そこに、誰かが座っている気配。
??
全員が振り返る。 でも、見えない。 声だけが、はっきりする。
??
白石のノートに、文字が追加される。
“最初の一人”
その名前だけが、読めない。 黒く塗りつぶされている。 教室の空気が、また歪む。 白石は、初めて顔を歪める。
白石
声が、すぐ後ろから返る。
??
その瞬間。 誰かの机が、ゆっくり軋む。 ――まるで、“最初の一回目”が始まるみたいに。
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