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ハチ
56
放課後の教室は、静かだった。 窓の外はもう暗くなりかけている。 机に向かっていた手を止め、律は顔を上げた。 誰もいないはずの教室で、椅子の軋む音がした。
律
返事はない。 振り返る。 教室には、自分しかいない。 さっきまで、確かに。
ギィ
律はゆっくり立ち上がる。 音のした方――教室の後ろ。 一つだけ、椅子が少し引かれている。
律
近づく。 指先で、背もたれに触れる。 温かい。
律
誰かが、ついさっきまで座っていたみたいに。
ガタッ
別の椅子が動く。今度は、横。
律
思わず声が出る。 誰もいないはずの空間に向かって。
律
静寂。そして。
ガタッ
今度は、前。自分の席。
律
自分の机の前の椅子が、ゆっくりと引かれている。 まるで。 誰かが向かいに座ろうとしているみたいに。
律
鞄を掴む。 視線を逸らしたまま、教室の出口へ向かう。
ガタッ
また椅子が動く。 今度は、連続して。
ガタッ
ガタッ
ガタッ
律
振り返る。 教室中の椅子が、少しずつ動いている。 一定の間隔で。 まるで。 誰かが、一つずつ席に着いているみたいに。
律
声が震える。 最後の一つ。 自分の席の隣。
ギィ
椅子が引かれる。
律
その席は、空いていたはずだ。 最初から。 ゆっくりと。 座る気配がする。 見えない。 でも。“いる”。
律
初めて。返事が返ってきた。
???
律
声は、すぐ隣から。
???
律
思い出せない。
???
律
言われて、考える。 隣の席。 誰が座っていた? 思い出そうとする。 でも。空白しかない。
律
???
即答。
???
律
頭が痛くなる。
???
律の肩に、何かが触れる。冷たい。
???
律
???
小さく笑う声。
???
律
何も思い出せない。 でも。 その“距離感”だけが、やけにリアルだ。
???
顔のすぐ横。
???
律
???
少し、間。
???
律
???
その瞬間。
ガタッ
教室中の椅子が、一斉に鳴る。 振り返る。 全部の席に。 “何か”が座っている。 見えないのに。確実に。 全員が、こちらを見ている。
???
律
???
律
言えない。 自分の名前すら。 一瞬。分からなくなる。
???
すぐ隣。
???
律
喉が詰まる。 名前が出てこない。 さっきまで。 普通に分かっていたはずなのに。
???
笑い声。教室中から。
???
隣の“それ”が、囁く。
???
律
???
耳元。
???
ガタッ
一斉に椅子が鳴る。 その音に紛れて。 誰かが言う。
???
律は、答えられなかった。